麻帆良祭

横島が僅かに考え込む間に清十郎は仮設店舗に居た少女達に囲まれていた

ちょうどタイミング悪くあやかが居なかったのだが、親しみやすいその雰囲気に少女達が集まっていたのだ


「いつもこの味が出せるのかね?」

食事が一通り終わると少女達と楽しげに話していた清十郎は、少し真剣な表情になり横島を見つめて質問を始める

それほど険しい表情などではないのだが清十郎の独特の雰囲気と真剣な表情に、騒いでいた少女達は途端に静かになってしまう


「絶対とは言い切れませんが、ほぼ同じ味を出せると思いますよ」

「中学生がこんな料理を作ったら本職の立場がないのう」

素直に質問に答えた横島に対して、清十郎は唸るように明日菜や木乃香達を見つめる

正直予想以上の味と完成度だった

一瞬自分が来た事で特別気合いを入れて作ったのかと考えたようだが、横島はそれを否定しており清十郎もその言葉に嘘はないと信じたようだ


「まあ味付けまで出来る子は多くないですけどね。 木乃香ちゃんなら出来ますよ」

「なんと……」

驚きの表情で唸る清十郎に横島は調理出来るメンバーとして木乃香の名前を上げるが、清十郎の驚きは予想以上であった

まあ明日菜と同じく幼い頃から知る木乃香がそれほど料理が得意だったとは知らなかったらしい


「最近横島さんの店でバイト始めてから、いろいろ料理を覚えたんよ」

驚く清十郎に木乃香は僅かに照れながらも最近料理が楽しいと言い切る

実際木乃香の料理の腕はここ数ヶ月で確実に上がっており、その成果が今回も現れていた

まあこれに関しては横島がどうとか言うより、木乃香のセンスとやる気だろう

加えて教えたポイントをそのまま素直に覚えていく木乃香の努力の結果とも言える


「お祖父様!? どうしてここに……」

清十郎が木乃香の事を感心していた頃、ちょうど用事から千鶴と一緒に仮設店舗に戻って来たあやかが祖父である清十郎の姿を見て驚いていた


「面白いことを始めたと聞いた以上、わしも見て見たくてのう。 千鶴ちゃんも久しぶりじゃの。 婆さんは相変わらず元気か?」

「お久しぶりです。 祖母は元気にしてますよ。 この前も学園長と会長の若い頃の話を聞きましたわ」

「どんな話か聞くのが怖いのう。 しかし千鶴ちゃんは婆さんの若い頃に似てきたな」

驚くあやかと対照的に清十郎は千鶴を見つけると親しげに会話を始める

どうも千鶴の祖母と清十郎と近右衛門は古い友人らしい


「ではわしは帰るとするか。 時間外に済まなかったのう。 みんな仲良く頑張るのじゃぞ」

食事も終わり孫の顔も見たし帰ると言い出した清十郎は何故かそのまま歩いて帰っていく

一応秘書は居るらしく外で待っていたようだが、どうやら車ではないらしい


「歩いて来たのか?」

「お祖父さまは一人でも電車をよく利用するんです。 立場上危険だからと言うんですけど……」

清十郎を見送っていた横島と2-Aの少女達だが、歩いて帰っていく姿に最後までみんな驚かされていた

てっきり車でも待ってるかと思ったのだが、どうやら電車で来たらしい


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