二年目の春・10

夕方になると麻帆良の景色はいつもの景色に戻っていた。

一部の出し物は例年通り夏休み明けまで残る事になるが、大半の物は姿を消すことになる。


「また来年あるわよ。」

「うん。」

タマモはやはり賑やかで楽しかった麻帆良祭の姿が消えていく姿に少し寂しそうで、一日一緒に居た明日菜の手をぎゅっと握り締めていた。

楽しい時間には必ず終わりが来る。

毎日が楽しく今までそんなことを考えることすらなかったタマモは、一つ学んで大人になっていた。


「よし、帰ってご飯の準備すっか!」

「うん!」

みんなで作った仮設店舗も雪広グループの建物も無くなり、資材の積み込みをするトラックや作業員が働く中、最後まで手伝っていた横島はタマモと明日菜を連れて帰ることにする。


「なに食いたい?」

「うーんとね。うーん……」

「久々に天ぷらとかは?」

「うん! てんぷらがいい!!」

路面電車と電車を乗り継ぎ店の最寄りの駅で降りた横島達は、近所のスーパーで今夜の献立を考えながら買い物をしていく。

タマモはあれが食べたいこれも食べたいと腕組みをして真剣に悩み始めるが、明日菜がふと視界に入ったエビから天ぷらの名を口にするとタマモは即座に賛成する。

気が付けば西の空がオレンジ色に染まり、世界樹は二十二年に一度の輝きの残り香のような光を放ちながら、オレンジ色の空にそびえ立っていた。


「横島さん。 どうかしたの?」

「いや、なんでもない。」

そんな世界樹をしばし見つめていた横島は、ほんの一瞬だけ過去に思いを馳せる。

交わした約束は何があろうとも決して消えない。

ルシオラと交わした約束も、この世界に来て交わした約束も全て。

当然ながら幼いタマモが何度も願い約束をした、みんなとずっと一緒に居るという約束ももちろん消えることはない。

この時、横島は世界樹に意識の揺らめきのようなモノを微かに感じていた。

人びとの満足そうな、やりきったような充実感を感じて喜ぶような……そんな意識が感じられる。

本来の歴史と違い使われることのなかった魔力は麻帆良に還元されて、やがてまた世界樹の力となるのだろう。


「おつかれさん」

それは人びとを見守り慈しむ、世界樹に対する労いの言葉だった。

何処か懐かしいような世界樹の意識に横島が半ば無意識にそんな一言を発すると、世界樹はまるで答えるように輝きを放ちながら風に揺れていく。


「横島……さん?」

「うん?」

「ううん。 なんでもない。」

さあ帰って夕食の支度をしようかと世界樹に背を向けて歩き出す横島を、明日菜とタマモは驚いた表情で見ていた。

ダブって見えた。

先日異空間アジトで見た小竜姫の姿が、横島に重なるように二人には見えていた。

その時麻帆良を優しい力が包み込むように突然現れてしまい、近右衛門や魔法協会が慌てるのだが。

横島達にはあまり関係の無いことだった。


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