二年目の春・10

石化したガトウを前に横島が選んだのは文珠だった。

数多の危機を救い、主神や魔王に並ぶとも切り札で有り続けるモノ。


「一つじゃさすがに無理か。」

現れた文珠は六つ。

【解】【呪】【完】【全】【治】【癒】

呪いは確かに強力だったが、文珠で直せぬ程でもない。


「これは文珠。 俺の切り札っすよ。 一つにつき一文字入れられます。 文字と込めたイメージに合わせて具現化します。 炎と文字を込めると炎が出ますし、理論的には時間移動すらこれで出来ますから。」

それは何なのかと言葉にする者は居なかったが、近右衛門や詠明や鶴子など文珠を知らぬ者が興味津々ので横島はざっくりと説明をする。

横島としては今更驚く事ではないが、やはり文珠は他者からすると衝撃とも言えるものになる。

魔法が発達したこの世界でさえ、特に理論や理屈を超えた能力には驚くしかない。

ただ横島は文珠の使い方も進化していた。

今回で言えば解呪と完全治癒は別の効果であり、文珠の複数使用のみならず異なる効果の文珠を同時に発動させる事が可能になっている。


「……」

「おおっ!?」

横島の手を離れた文珠は石化したガトウの前に浮くように止まると、解呪と完全治癒の二つの効果が全く同じタイミングで同時に発動した。


「師匠!!」

十年ぶりに止まった時が動いたガトウは血濡れたワイシャツの血の色すら鮮やかなまま復活する。


「お前は……タカミチか? ……詠春? ……エヴァ。 ここは……」

ガトウはその瞬間意識をも回復したが、周りに居る人と自分の状況をすぐに認識が出来ないようであった。


「一時的な記憶の混乱っすね。 肉体的には回復したんで、すぐに落ち着きますよ。」

ただ魔法により止まっていた肉体の生命活動が急に動き出した影響はそれなりにあるようだ。


「立派になったな。 タカミチ。」

それから一同とガトウは近衛本家に移り、記憶の混乱からの回復を待つが程なくしてガトウの記憶は回復する。

まるで子供のように泣きじゃぐる高畑にガトウは、嬉しそうに目を細めてなだめていた。


「詠春。 何年経った?」

「十年経ちましたよ。」

「そうか。 アスナは?」

「元気に生きてますよ。 私の娘と一緒に麻帆良に居ます。」

十年という詠春の言葉にもガトウは冷静に受け止めていて、彼にとってはつい先刻である幼いアスナの姿を思い浮かべ感慨深げにしている。


「二度と助からないと覚悟したんだがな。」

「いろいろありたしたから。 ゆっくり話しますよ。 この十年の間の事を。」

十年一昔というが、ガトウはまさにちょっとした浦島太郎状態だった。

彼はとりあえずこのまま近衛本家にて、十年分の時を取り戻すべく動きだすことになる。


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