二年目の春・10

この日の夜、近衛邸には近右衛門と穂乃香に横島と刀子とアナスタシアと詠春までもが揃い高畑が呼ばれていた。

少しいつもと違う雰囲気に高畑も気付いたのだろう。

当初は横島の過去に関して話すのかと考えていたようだが。


「高畑君。 ワシらは君に謝らねばならん。」

「学園長……」

「お義父さん。 僕から話しますよ。」

この場に横島が呼ばれたのは他ならぬ横島にした助けられない者が居るからで、刀子とアナスタシアは今後の為に近右衛門が呼んでいた。

ぶっちゃけ刀子からすると些か荷が重いメンバーだと内心では思っているが。


「君とクルト君が探していたナギについて、隠していたのは僕とお義父さんです。 ナギは世界樹の地下に封じられてます。 それともう一つ。 ガトウは生きて居ます。 瀕死のまま永久石化の魔法を受けて物言わぬ形ですが……」

詠春は勿体ぶる事もなく、今まで隠していた事をあっさりと高畑に打ち明けた。

その瞬間高畑は固まったように動かなくなり、しばし沈黙が辺りを支配する。


「アルビレオも生きて地下でナギを見守ってる。 君にはもっと早く話しても良かったのかもしれない。 ただ明日菜君とは違いバレても動かすことは出来ない。 君を通してクルト君やメガロメセンブリアに知られる訳にはいかなかった。」

高畑は何も語らぬが、詠春の言葉に表情を変えぬまま涙を流していた。

言葉では言い表せない複雑な想いがあるのだろう。

ただ……。


「……ナギが……アルが……師匠が生きている。」

「生きているといえば生きているね。」

生きている事が何より嬉しく良かったと高畑は心底思う。

例えどんな状態であれ、生きていれば未来はあるのだから。


「ナギは予想出来てるだろうが、創造主に乗っ取られて自ら封じられた。 ガトウは君が知らせてくれたおかげで永久石化されてはいるが回収して関西に匿っている。 手は尽くしたが助けられなかった。 あまりに強力な永久石化と解除すればすぐに死に兼ねないからね。」

先日横島の過去を聞いて高畑は密かに思っていた。

再び会える横島が羨ましいと。

高畑は多くを望んだ訳ではない。

かつての仲間達と会いたかっただけなのだ。


「ナギはまだ助けられない。 ただしガトウならば別だ。」

幸か不幸かナギとガトウは横島次第と言えた。

不滅の存在の創造主も横島ならば倒すことも救う事も不可能ではない。


「そんじゃ。 起こしに行きましょうかね?」

近右衛門と詠春は土偶羅を交えて相談して、ガトウの復活をさせることを決めていた。

高畑の背負う荷を一つでも降ろしてやる為に。

話が落ち着いた事で横島はその場に居る者を連れて、関西の近衛本家に転移した。


「まさか……こんな日が来るとはな。」

近衛本家で一行を待っていたのは、詠春の兄で神鳴流青山家当主の詠明と彼の娘の鶴子だった。

横島の素性を知る関西唯一の二人を加えて地下にある秘密の蔵に一行は降りて来ている。

詠春が高畑にガトウの事を隠していたのは、救うことが出来ないからだ。

関西の者も手を尽くしたが、永久石化の解除は困難な魔法と言われる一つになる。


「……横島君」

「大丈夫っすよ。 この程度なら俺でも解除出来ます。 しかし敵はなんでこんな事を? 放っておけば数分とかからず死ぬのに……」

蔵の奥に人目を避けるように置かれた石化されたガトウに、高畑は崩れ落ちるように膝を付くと声を押し殺して泣いていた。

詠春達の視線がそんな高畑に集まり横島に移ると、横島は石化されたガトウを霊視してみるが確かに生きている。

ただ横島には、何故敵はガトウを石化したのか。

それが分からなかった。


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