二年目の春・10

「あれは魔族の王ネ。 ザジさんは彼の娘ヨ。」

「魔族の王ですか。 ちょっと変わった人でしたね。 マスターは彼と知り合いのようでしたが……」

「そこが疑問ネ。 そもそも魔族の王についてはよく分からない。 歴史にないことは私にも分からないヨ。」

そして魔王の麻帆良訪問は、超鈴音に新たな疑問を投げ掛ける結果となっていた。

ザジの正体と彼女が魔王の娘であることは超鈴音も未来知識から知っていたが、魔王本人に会ったのは初めてである。

魔法世界や地球には魔族が居るし、魔族自体は珍しくない。

横島の世界と比較すると神族が居ないためか相対的に大人しいのだが、魔王に関しては謎の部分が多く公式に魔法世界や地球に来た記録は当然ない。


「マスターは魔族ですか?」

「さてどうかな。 憶測以上の答えを導き出すには情報が足りないネ。」

存在は知られているがよく知らないのが魔王であり、葉加瀬は同じく謎が多い横島も魔族かと口にするが超鈴音でさえ何とも言えないとしか分からない。

客観的に横島という男は知れば知るほど分からなくなる。

ただ者ではないとは思うが彼が何かしたと言うことは確認出来なかったし、超鈴音の計画を止めた時も横島が何かした形跡はなかった。

尤もあやか辺りには何かあると勘づかれたし、横島に近い少女達の様子を見ていると全く知らないとは思えないので横島も何かしらの情報は知ってるとは思うが。


「世界とは奥が深いネ。 歴史に記された内容や過去を知る人から聞いた話も真実の一面でしかない。 あんな人が何の野心も持たずに居るのが世界なのかもしれないヨ。」

敵か味方かでいえば敵ではないとは思う。

しかし魔族の王と喧嘩と本人は言っていたが、恐らく戦ったのだろうとすると、横島の強さは高畑より上の可能性すら出てきていた。

横島には世界に対する野心も無ければ関心もない。

それは超鈴音も気付いている。

客観的にいえば変人。

ナギや赤き翼とは方向性は違うが、普通ではない存在なんだろうと思うと自分の計画がいかに狭い視野で考えていたかを改めて気付かされていた。

ただ今までは超鈴音同様に他者との繋がりが全く見えなかった横島が、この時代の繋がりが初めて明らかになったことで横島が未来人である可能性は低くなったと思う。


「でも魔族の王と喧嘩なんて何をしたんでしょうね?」

「私たちから見れば酷く個人的な理由かも知れないネ。 少なくとも大義や正義の為に戦った訳ではないと思うヨ。」

葉加瀬は温厚で怒るイメージのない横島が魔族の王をぼこぼこにしたと言われた事に違和感を感じ、その理由を気にしていたが超鈴音は自分達とは違い個人的な理由だろうと考えている。

魔族の王が言っていた。

一番怒らせたら駄目なタイプだという言葉や日頃の横島から考えると、この場で推測できる内容ではないと思う。


「まあ、いいネ。 カシオペアの研究を続けるヨ。」

何故か横島が気になる超鈴音だが、彼女は三十三年に一度の魔力濃度が高い現状を利用してカシオペアの研究を未だ続けていた。

魔力大放出のピークは過ぎたが、あと二~三日は研究が出来るようなので今が頑張り時になる。

カシオペアの効率性と安全面での強化、それと最大の懸案である可動魔力を減らすか世界樹に頼らず蓄積した電池のような物にする計画を纏めるつもりだった。

最終的にカシオペアを改良するかは近右衛門次第であるが、カシオペアという物が存在する以上は第二第三の未来人が来る可能性がある。

対抗手段はあるべきだし、超鈴音はそれをこの時代に残すつもりでいる。

それが自分を受け入れてくれた、この時代に対する恩返しになると信じて。


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