二年目の春・9
「結局、横島がアシュ様を倒した。 ルシオラという大きな犠牲を払ってな。」
少女達の大半は考えていなかった。
人が魔神とも呼べる存在に立ち向かう現実を。
どれだけの犠牲を払い戦ったのかを。
「グスッ……グスッ……」
別荘のリビングでは少女達のすすり泣く声が静かに響いていた。
タマモは真っ先に泣いてしまい、さよの胸で今も泣き続けている。
大切な人を目の前で失う。
いや自ら見捨てねばならなかった真相は、平和な世界に生きる少女達にとってあまりに残酷すぎた。
「その後、横島は日常に戻った。 しかし程なくして横島を助けるためにルシオラが与えた魂が覚醒した。 力のみならず経験や知識に記憶も横島は受け継いでしまったのだ。」
これが物語とするならばエンドとなるのだろうが、横島の日常はそれからも続く。
「美神令子は横島を守る為に旧知の神族である小竜姫に預けた。 横島がアシュ様を倒した事は表向きは隠されたが神魔界では知らぬ者は居ないし、人間界でもそれなりに知られていて注目していたからな。 良からぬ事を企む者や利用しようとした者も多かった。」
めでたしめでたしとはいかずに大切な人を失った横島に対する周りや世界の仕打ちはあまりに冷たく、それは皮肉にもかつて魔法世界を救った赤き翼やアリカと通じるものがあった。
「そんな! それじゃ横島さんは……」
「いや、それからしばらくは横島にとって平穏で幸せな毎日だったろう。 小竜姫は傷ついた横島を守り支えながら十年ほど一緒に暮らしていたからな。」
ルシオラの記憶に封じられていたアシュタロスの遺産の在処を見付けて手に入れた横島は、三姉妹に与えられるはずだった遺産の中でルシオラの権限を必然的に受け継ぐしかなかった。
とはいえ小竜姫の元で横島は生まれて初めてきちんと修行をしたし、精神的に大人になったのも小竜姫の支えがあってこそと言える。
「その小竜姫さんって、神様は……」
「男女の関係ではなかったな。 しかし男女の関係より深く信頼していたし、互いに意識もしていた。 よくからかわれていたからな。 夫婦かと。」
自分達の知らない横島が自分達の知らない女性と幸せに暮らしていた。
その事実に少女達は喜びと微かな胸のモヤモヤを抱えながら聞いていた。
横島はモテないと嘆いていたが、横島の人生にはやはり女性が居たのだと改めて理解させられたからだろう。
一方横島はただ無言で小竜姫のシミュレート体と手合わせを続けていた。
横島自身、修行や手合わせは好きな方ではない。
とはいえアシュタロス戦後に十年ほど妙神山に滞在していた時には小竜姫と何度も何度もしたし、ふらふらと修行と実戦を繰り返していた雪之丞に付き合わされてやらされたことが何度もある。
いつからだろうか。
迷い悩むと体を動かすようになったのは。
「剣に迷いがありますよ。」
そんな手合わせが止まったのは、しばらくした頃だった。
純粋な剣のみでの手合わせで一瞬の隙を突かれてしまい、小竜姫の神剣が横島の首筋に突き付けられている。
「困った人ですね。 本気になれば敵う者など居ないのに。」
「……怖いんっすよ。」
ようやく口を開いた横島は、麻帆良に来てからの事を小竜姫に話始めた。
初めは逃げたかっただけなのかもしれない。
世界を終わらせたという現実から。
ルシオラや小竜姫達の復活の可能性は残しつつ、それに手を付けずに今まで居たのも怖かっただけだろう。
かつての仲間や最愛の人に会うのが。
少女達の大半は考えていなかった。
人が魔神とも呼べる存在に立ち向かう現実を。
どれだけの犠牲を払い戦ったのかを。
「グスッ……グスッ……」
別荘のリビングでは少女達のすすり泣く声が静かに響いていた。
タマモは真っ先に泣いてしまい、さよの胸で今も泣き続けている。
大切な人を目の前で失う。
いや自ら見捨てねばならなかった真相は、平和な世界に生きる少女達にとってあまりに残酷すぎた。
「その後、横島は日常に戻った。 しかし程なくして横島を助けるためにルシオラが与えた魂が覚醒した。 力のみならず経験や知識に記憶も横島は受け継いでしまったのだ。」
これが物語とするならばエンドとなるのだろうが、横島の日常はそれからも続く。
「美神令子は横島を守る為に旧知の神族である小竜姫に預けた。 横島がアシュ様を倒した事は表向きは隠されたが神魔界では知らぬ者は居ないし、人間界でもそれなりに知られていて注目していたからな。 良からぬ事を企む者や利用しようとした者も多かった。」
めでたしめでたしとはいかずに大切な人を失った横島に対する周りや世界の仕打ちはあまりに冷たく、それは皮肉にもかつて魔法世界を救った赤き翼やアリカと通じるものがあった。
「そんな! それじゃ横島さんは……」
「いや、それからしばらくは横島にとって平穏で幸せな毎日だったろう。 小竜姫は傷ついた横島を守り支えながら十年ほど一緒に暮らしていたからな。」
ルシオラの記憶に封じられていたアシュタロスの遺産の在処を見付けて手に入れた横島は、三姉妹に与えられるはずだった遺産の中でルシオラの権限を必然的に受け継ぐしかなかった。
とはいえ小竜姫の元で横島は生まれて初めてきちんと修行をしたし、精神的に大人になったのも小竜姫の支えがあってこそと言える。
「その小竜姫さんって、神様は……」
「男女の関係ではなかったな。 しかし男女の関係より深く信頼していたし、互いに意識もしていた。 よくからかわれていたからな。 夫婦かと。」
自分達の知らない横島が自分達の知らない女性と幸せに暮らしていた。
その事実に少女達は喜びと微かな胸のモヤモヤを抱えながら聞いていた。
横島はモテないと嘆いていたが、横島の人生にはやはり女性が居たのだと改めて理解させられたからだろう。
一方横島はただ無言で小竜姫のシミュレート体と手合わせを続けていた。
横島自身、修行や手合わせは好きな方ではない。
とはいえアシュタロス戦後に十年ほど妙神山に滞在していた時には小竜姫と何度も何度もしたし、ふらふらと修行と実戦を繰り返していた雪之丞に付き合わされてやらされたことが何度もある。
いつからだろうか。
迷い悩むと体を動かすようになったのは。
「剣に迷いがありますよ。」
そんな手合わせが止まったのは、しばらくした頃だった。
純粋な剣のみでの手合わせで一瞬の隙を突かれてしまい、小竜姫の神剣が横島の首筋に突き付けられている。
「困った人ですね。 本気になれば敵う者など居ないのに。」
「……怖いんっすよ。」
ようやく口を開いた横島は、麻帆良に来てからの事を小竜姫に話始めた。
初めは逃げたかっただけなのかもしれない。
世界を終わらせたという現実から。
ルシオラや小竜姫達の復活の可能性は残しつつ、それに手を付けずに今まで居たのも怖かっただけだろう。
かつての仲間や最愛の人に会うのが。