麻帆良祭への道

結局千鶴も加えて二人で作業するここになった横島だったが、美少女である千鶴と作業することが嫌なはずもなく素直に楽しそうである

千鶴はそんな横島の姿に、自身がボランティアで世話する子供を思い出してしまう


(この姿だけだと普通の人なんですよね)

ちょっと悪戯好きな子供がそのまま大きくなったような横島に思わず笑ってしまいそうになる千鶴だったが、その表情が状況により微妙に変わるのが気になるらしい

普段は軽い調子でお調子者といったイメージが強い横島だが、料理の時などたまに別人かと思うほど違う表情をすることがあるのだ

そのギャップが千鶴は気になるようである


「そろそろ送っていくか。 あんまり遅くなると明日に響くぞ」

二人が作業を始めて二時間ほどは雑談をしながら続けていたが、夜九時を回ろうとした頃になると横島は千鶴を送って行こうとしていた


「私なら大丈夫ですよ。 先程寮にも連絡入れましたし……」

時間的に流石に千鶴を帰さないとダメだと考える横島に対して、千鶴は横島一人にこのまま作業をさせるのは申し訳ないと考えているようだ

そもそもこの企画は2-Aの発案なのに、みんな横島に頼り過ぎだと千鶴は密かに考えていた

横島があまり表立ってリーダーシップを発揮しないから目立たないが、細かなサポートなどでかなり負担を掛けてる事実に気付いている


「もう十分頑張ったし今日は休んだ方いいぞ。 麻帆良祭はこれから忙しくなるし、もしかしたら明日辺り徹夜になるかもしれんしな」

千鶴の気持ちを察したのか、横島は先程とは違い少し強い口調で帰るように勧める

正直麻帆良祭はこれから忙しくなるしいろいろ遊べる期間なのだから、今のうちにゆっくり休むのは必要なことだった


「中学生なんだからさ。 細かいこと気にしないでもっと気楽に楽しめばいいと思うぞ」

あまり多くは語らない横島だが、千鶴はもっと周りや大人に甘えていいのではと感じている

横島自身は千鶴の気遣いが非常に嬉しいが、素直に大人に甘えられない不器用さがある気がしたのだ

その大人びた見た目からなのか資産家の家柄からなのか横島には分からないが、横島は千鶴が甘えるのが下手なのではと感じていたのである


「……はい」

珍しく少し強い口調の横島に僅かに戸惑う千鶴だったが、あくまでも木乃香達と同じように接する横島には素直に嬉しかった

横島が気付いたように実は千鶴は甘えるのが苦手なのだ

同級生にすら甘えられる立場の千鶴だが、そんな彼女も当然甘えたい時はある

何の下心もなく千鶴を甘えさせようとする男性は意外と少なく、千鶴にとっては新鮮な出来事だった

結局千鶴は横島の言葉に従い帰る準備をするのだが……


「えっ!?」

立ち上がった千鶴は何かに足を取られ体勢を崩してしまう


「大丈夫か? 危なかったな~」

そのまま前に倒れていき思わず目を閉じてしまう千鶴だったが、次の瞬間感じたのは床の衝撃ではなく人の温もりだった

その瞬間転びそうになった千鶴の両腕を前から掴み、横島はとっさに受け止めていたようだ


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