二年目の春・9

結局その後は横島は魔王の近くから離れてしまい、二度と二人が絡むことはなかった。

そして麻帆良の街には、後夜祭の終わりを告げる夜明けが訪れる。


「横っち。 わいは帰るわ。 最後に余計なお世話やけど一つ言うとく。 あの時の力だけは二度と使わへん方がええで。」

超包子や雪広グループ関係者にいつの間にか加わっていた大学生達もすでに帰っていて、横島は身内と言える少女達とゴミの後始末をしていた時にザジを連れた魔王が再び声をかけていた。


「ああ。 分かってる。」

「それと、もしアレを使うなら事前に連絡くれや。 可能な限りフォローはするつもりやからな。」

「……お前らにとって、あれは数多ある流れの結末の一つでしかなかったのか?」

「やっぱり横っちはアシュの奴に似てるわ。 気に入るはずやなあ。 ……その答えはノーや。 無数に経験しても、わいもキーやんも全知全能やない。 失敗すれば落ち込みもするし悔いる時もある。 何度でもな。」

誰も口を開かなかった。

少女達もタマモもザジも。

まるで二人だけの世界のように、横島はずっと聞きたかった事を口にした。


「悪かったな。 引っかき回して。」

「お互い様や。 こっちこそ借りを返せへんですまんかったな。 まだお互い時が必要や。 いつの日か……」

「ああ。 分かってる。」

ちょうど夜明の日射しが魔王の後光のように射し込んだ瞬間。

魔王は姿を消した。

朝の清々しい空気の中、横島は朝焼けの空をただ無言で見つめていた。


「ねえ。 ザジさんって……」

「魔族です。」

「意外に周りに居るのね~。」

麻帆良祭の翌日は振り替え休日であり、仮設店舗の鍵を閉めると横島達は最後まで一緒だったザジも含めて一緒に帰る事になる。

しかしそこでは少女達が、ずっと気なっていたザジの正体について聞いていた。


「俺のこと何処まで聞いた?」

「こことは異なる世界から、次元を超えて来たのだ聞きました。 そして貴方が異世界で成した事も少し聞いてます。」

「成した事?」

普段無口なザジだが特に隠すわけでも気にする訳でもなく淡々と答えていて、横島もまたサジが自分の過去を何処まで聞いたのか尋ねていた。


「あのやろう。 人の過去をペラペラと……」

「父はお酒を飲むと娘に甘くなります。 肩もみをしてお酌したら教えてくれました。」

「お父さん、魔王なんでしょ? それでいいの?」

「力や実力と人格は別問題です。 非常時は働くので普段はあんな感じです。」

「誰かとにてるわね。」

横島は口が軽い魔王にやはり二三発でも殴っておくべきだったと後悔するが、魔王と日常を聞いた少女達はまた一つ常識が壊れた気がした。


「あの、あの人が話していた。 キーやんとは何方でしょう? そんな悪魔居たでしょうか?」

「ああ、そいつは魔族じゃないからな。 正反対の親玉だ。」

「魔族の正反対の親玉って……」

「えーーーーー!!!!」

そしてのどかがずっと気になっていたもう一つの疑問を口にした時、朝の麻帆良に少女達の驚きの声が上がった。



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