二年目の春・9

「まあ、飲もうや。」

予期せぬ繋がりに横島は戸惑い困惑するが、魔王は敵意もなくファンタジーな椅子に座ると後夜祭の打ち上げ用の料理をつまみ、持参したスーパーの袋に入っていた缶ビールを横島とアナスタシアの前に置いた。


「なるほど。 貴様の正体は……」

「嬢ちゃんの元同業者ちゅうこっちゃ。」

「えっ!? アナスタシアさんの同業者って……」

一方未だに警戒を解かぬ横島に少女達は不思議そうにしていたが、魔王がアナスタシアを同業者と呼んだことで一部の感のいい者は正体に気付いてしまう。


「まさか、まっ……」

「そっちの嬢ちゃん。それは言わんでくれへんか。一応わいにも立場があるんや。わいの事は気楽にさっちゃんって呼んでくれればええ」

横島はその事に深いタメ息を溢すと、同じテーブルに座り魔王の置いたビールの蓋をあけて飲み始める。

流石にこの場で決着は着けたくないのだろう。


「さのつくアレって、確か……」

「本物には私も初めて会うな」

そしてアナスタシアとチャチャゼロも同じテーブルに座ると、共に魔王の寄越した缶ビールの蓋をあけて飲み始める。

魔法世界の魔王と魔族の王である魔王。

歴史的な対面のはずが、ファンタジーな椅子とテーブルのおかげで何処か台無しだった。


「元気そうやな。 キーやんも心配しとったで?」

楽しい後夜祭が一転微妙な再会になった横島は、馴れ馴れしい魔王に心底嫌そうな顔をした。

つい一年と数ヵ月前の事なのだ。

互いに殺しあったのは。


「ザジさんのお父さんが、マスターと友達?」

「喧嘩友達みたいなもんやな。」

「マスターって、喧嘩出来なさそうなのに……」

「あかんねん。 こういうタイプが一番怒らせると怖いねん。 わいもボコボコにされたもんや。」

ただこの場には魔法すら知らない一般人も多い。

特にザジのお父さんと横島が顔見知りだと知った何も知らぬ者達は、周囲に集まり質問攻めにしていた。


「質問! マスターって本当にモテなかったの?」

「昔から周りには綺麗な姉ちゃんが、ぎょうさんおったな。」

「やっぱりモテたんじゃん!」

何かと謎が多いだけに特に裕奈などは、この機会に横島の恋愛遍歴をはっきりさせようと意気込んでいる。


「ただし嬢ちゃん達が考える恋愛関係でないのは確かやな。 横っちは昔からそっち関係は不器用やったからな。」

「へぇ。 じゃあ、彼女を取っ替え引っ替えしてたわけじゃないんだ。」

「愛される事も愛することも横っちは不器用やからな。」

チビチビとビールを飲み、打ち上げ用の料理を食べる魔王の言葉は何処か真実味があった。

横島本人はまだ口を聞きたくないのか、ムスッとしたままなので余計におかしな雰囲気になっている。


「相変わらず嘘ばっかり言いやがって。 そうやってまた人を惑わす気か?」

「えっ!? 嘘なの!?」

「そもそも俺がそいつと会ったのは数える程しかねえよ。」

「まあ、信じるも信じないも自由っちゅうこっちゃな。」

横島がようやく口を開いたのは、質問攻めが落ち着いた頃だった。

人をくったような魔王を胡散臭げに睨んだ横島は嘘だと言い切り、周囲に集まっている多くの者達を戸惑わせる。

しかし魔王は笑いながら自由という言葉で横島との言い争いを避けていた。


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