二年目の春・9

「惜しいネ。これだけの魔力をただ放出するだけなのは、本当に惜しいネ。」

一方超鈴音はこの日は世界樹の観測をしていた。

本来の歴史と違い計画もなく暇になった彼女だが、高畑に許可を得て世界樹の科学的な調査の一貫として、彼女のオーバーテクノロジーを活用して二十二年に一度の魔力の解放を徹底的に調べることにしたらしい。


「それがそうでもないんだよ。 世界樹が貯めた魔力は元々はこの世界の生命の力。 自然に還すのが一番いいという人もいる。」

場所は魔法協会の地下施設の一角にて行っていたが、オーバーテクノロジーを用いるので一般の魔法関係者にも軽々しく見せられない。

結果として高畑が空いた時間に様子を見ていたが、本来の計画の影響か膨大な魔力を見てるだけだというのは惜しいと口にする超鈴音に高畑は何もしないのが一番自然なんだと語る。

元々世界樹の放出した魔力は地域や日本に還元されて、再び世界樹に集まるようなサイクルがあるのだ。

魔法世界のように魔力を無尽蔵に消費することに、日本の魔法関係者は否定的でもあった。


「興味深いネ。 魔力と生命の関係は未来でも科学では完全に解明されてなかったヨ。」

「人が手をだしていいのか。 迷うね。 そうそうこれを君に持ってきたんだ。」

そんな高畑だが、今回超鈴音の元を訪れたのはもう1つ理由がある。

高畑は超鈴音に懐中時計型渡航機カシオペアを手渡した。


「どういうことネ?」

「実験したいだろ? この期間しか動かせない物だ。 ただし事故などのないように注意してくれ。 これは僕と学園長くらいしか知らないんだ。」

まさか麻帆良祭の最終日にカシオペアが自身の手に戻ってくると思わなかった超鈴音は、さすがに呆気に取られる。

正直高畑も近右衛門もカシオペアはこのまま封印してしまおうと考えていたが、土偶羅の進言で短期間の研究の為のみで貸し出すことにしたらしい。


「私がこれを悪用したらどうするネ?」

「君も教え子なんだ。 信じてるよ。」

「甘いネ。 私が再び過去に飛べば……」

「技術を絶やしてはならない。 それが学園長と僕の結論だ。 君が悪用するなら僕が必ず止める。 何度でもね。」

超鈴音は複雑そうな表情でカシオペアを受け取った。僅か半日あまりしか研究出来ないが、それでもその時間がどれだけ貴重かは理解している。

一方の高畑はカシオペアは人の手に余る物であり、超鈴音を心配するが故にこれを渡すか二日も悩んでしまった。

近右衛門も最終判断は高畑に任せたのだ。

だが横島を見てると思うのだ。

批判されるべきは技術や力ではないのだと。

人知れず歴史の闇にカシオペアが消えていくのは大きな損失なのではないのかと。


「おっと、僕はそろそろ行かなきゃならない。 何かあれば連絡してくれ。」

超鈴音にカシオペアを手渡すと高畑は少しすっきりした表情で仕事に戻っていく。

そんな高畑に超鈴音はこの世界の人の温かさを改めて感じずには居られなかった。

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