二年目の春・9

「メガロメセンブリアでしたか。 やはりお世辞にも誉められた国ではないようですね。」

「魔法の国? なんで?」

「夢の中の刀子さんが、メガロメセンブリアにて収監されるような事を言っていたではありませんか。あれは事件を防げなかった責任を末端の警察官に擦り付けるような行為です。どう考えてもおかしいです」

「言われてみるとそうね。」

そのまま少しずつ夜が明けていく中、少女達は砂浜に座り思い思いの意見を語っていた。

すっかり目が覚めたタマモがまき絵と一緒に砂で山を作るのを眺めながら、夕映が語ったのは夢の中の平行世界のメガロメセンブリアへの疑問だった。


「一応彼らの国では捕らえる法的根拠はあるのよ。 まあ私なんかは日本人だから国がしっかりしてたら拒否も出来たんでしょうけどね。」

メガロメセンブリアには魔法を故意に広めるばかりではなく、魔法を知らぬ人に知られただけで罪とする法がある。

それによりオコジョ刑務所に入れられるが、そもそもメガロメセンブリアには魔法使いは普通の人類とは違うのだという選民思想が根強く存在する。

現代では割とマシになっているが、大半のメガロメセンブリア人にとって地球の人間など外国人以上に遠い存在でしかない。

それに魔法使いと地球側の宗教や権力との争いを魔法使い側の一方的な視点から、地球側の宗教や国家は欲に汚れた者達だという教育を普通にしていたりする。

言葉として少し乱暴だが、地球人類を魔法使いより劣る劣等種族だと決めつけていた時代すらある。

流石に現代ではそこまで乱暴ではないが、差別のような見下した意識はナチュラルにあるのが一般的であり、それ故に救ってやらねばならないと立派な魔法使いが人気だったりする。

一緒に良くしようとか協力しようではなく一方的な救済をする立派な魔法使いが人気の訳は、そんな上から目線があり地球側の人間と必ずしも上手くいかない理由にもなる。


「国なんて何処もそんなもんだよ。 個人の人権なんていざとなれば簡単に切り捨てる。 それが仕事といえば仕事だしな。」

少女達はまた魔法の国かと言いたげな表情をするが、意外な事にメガロメセンブリアを擁護するとも受け取れる事を口にしたのは横島だった。


「えー! それって酷くない?」

「テレビだと綺麗事ばっかり言うからな。 僅かな人の為に国を世界を危険に晒せるか? 結局は自分の身は自分で守らなきゃならねえんだ。」

ただ横島は別にメガロメセンブリアを擁護してるのではなく、人間という存在と人間の国というシステムを全く信用してないだけだが。

アシュタロスとの戦いの際には令子は人権も関係なく一方的に切り捨てられようとしたし、横島に至っては未成年の見習いにも関わらず潜入などという危険な事をやらされ人類の敵にされた。

しかし横島も令子も国家からも世界からも謝罪も何も受けてなく、すべては超常現象に対処する超法規的な判断だと片付けられて終わっている。

まあそれはアシュタロス戦後の神魔戦争の際に横島と令子の全面協力の拒否という手痛いしっぺ返しとして、日本や世界に返されることになるが。


「うーん。」

「貴様らには理解出来んだろう。 実際に裏切られた者でなくばな。」

近右衛門達や少女達のおかげで、麻帆良での横島はずいぶんお人好しに見えているようだが、横島の根源には根強い人間不信が今もある。

実際それを理解するのは、同じく根強い人間不信があるアナスタシアだけなのかもしれない。


「国や世界を敵に回すのも、厭わないという事ですか。」

「俺はそんなもんの為に戦う気はないからな。 世界の為に犠牲になれっていうなら足掻くぞ。」

世界を敵に回しても君を守る。

陳腐な口説き文句として今時使う人は居ないだろう。

しかし横島やアナスタシアは納得がいかねば世界を敵に回しても本気で戦うのだと、少女達は改めて思い知らされる。

横島やアナスタシアの強さの真髄を少女達は初めて理解した気がした。


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