二年目の春・9

「何か用か? 私は忙しい。」

一方アナスタシアは近衛穂乃香と共に図書館島の地下でアルビレオ・イマと会っていたが、不機嫌そうである。

呼び出したのがアルビレオだという事も気に入らないが、またろくでもない話だろうと考えてるらしい。


「まあまあ、お茶でもいかがですか。 せっかくなので」

場所は彼が勝手に住み着いた最下層の一角になる。

アルビレオはアナスタシアと穂乃香にお茶を出して、話をなかなか始めようとしない。

穂乃香の方は無表情というか機嫌が良くも悪くもない。

こちらは関西で揉まれたようで腹芸も当然出来るのだろう。


「あれから随分時が過ぎました。 私もそろそろナギの遺言を果たしたいので御協力をお願い出来ませんか?」

「遺言だと?」

「自分に何かあった時には、我が子に何か言葉を残したいと。」

重苦しい空気が変わらぬことに、アルビレオはため息を溢して本題に入る。

それは本来ならばこの麻帆良祭であるべき出来事が無くなった影響だった。

彼のアルビレオの行動原理はナギであり、それ以上でも以下でもない。


「止めておけ。 向こうから望んで来たならばともかく、過去の押し売りなどして何になる。」

「そうね。 彼がいつか大人になり麻帆良を訪れて、貴方に会いに来るまではそっとしておいてあげて。」

実はアルビレオはネギの正確な居場所や現状を掴んでない。

一人では図書館島の地下から動けぬ彼の情報源はマホネットであり、ネギが魔法学校の卒業のゴタゴタで魔法世界に渡ったくらいしか知らなかった。

アナスタシアはこの件に関してはアルビレオに悪意はないと理解して口を開くが、どう考えても余計なお節介にしか思えない。

続けて穂乃香もそれに賛同して、ネギが大人になり父を探しに来た時までそっとしておいて欲しいと告げる。

諸勢力の監視下という複雑な環境だが、ようやく家族水入らずの時間を手に入れ人並みの生活をしてるネギに、今ナギのコピーに会わせる意味を二人は見出だせなかった。


「しかし、彼には知る権利がある。 父や母が何を成そうとしていたのか。」

「知る権利は誰にでもあるわ。 肝心なのは自ら望むか望まないか。 貴方、今度は子供を世界の犠牲にしたいの?」

アルビレオにとってネギは希望の欠片なのかもしれない。

明日菜とネギが力を合わせれば……。

そう考えてもおかしくはないのだが。


「貴様は大人しく墓守をしていろ。 いつか奴の息子が来るまでな。」

アナスタシアには少しアルビレオの気持ちが理解できた。

僅かな可能性でもそれに賭けるしかない。

少し前までの彼女と同じなのだから。

しかし、どれほど可能性に満ちた存在とはいえ子供は子供だ。

余計なことをするなと釘を刺すと、穂乃香もそれ以上語ることはなかった。



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