二年目の春・9

「あら。 久しぶりね。」

同じ頃市内の巡回をしていた刀子は、偶然にも予期せぬ再会をしていた。


「ああ、元気そうだな。」

相手は刀子の別れた元旦那だった。

元旦那の方は買い出しに出ているようで、手には荷物を持っている。

一度は生涯を共に生きると誓った相手との再会だが、少し戸惑った表情をしているのは元旦那の方か。


「いい人見つかった?」

「まあ、ぼちぼちかな。 そういう君こそ、噂の奴とはどうなんだ?」

互いに意識しないと言えば嘘になるだろう。

嫌い憎しみ別れた訳ではない。

ただお互いにもう他人なのだと、自然と納得出来る気がした。


「いい関係よ。 一緒に笑い一緒に悩めるような。 普通の恋人や夫婦とはちょっと違うけど。」

歩きながらしばし会話をするが、二人の距離も会話の内容も最早かつてとは違う。

過ぎ去りし時以上に時が流れたのを、二人は感じずには居られなかった。


「そうか。」

「ねえ。 後悔してる?」

「いや。 後悔はしてない。」

「そう。 なら良かった。」

もう少し違った道を選んでいたら。

共にそんな事を考えたことは一度や二度ではない。

だが別れた道が再び交わる事がないことを、この時元旦那は感じた。


「何か困ったら頼っていいわよ。 再婚以外なら力になるわ。」

「それは頼もしいな。 噂の彼はそんなに頼もしいのか?」

「普段は貴方の方がしっかりしてるわ。 でも……」

「理不尽な世界に立ち向かえるか?」

「違うわ。 ひっくり返しちゃいそうな人よ。 一人で。」

「とんでもない奴だな。」

「多分、貴方の想像よりもずっとね。」

かつてより自然な笑顔が増えた刀子に、元旦那は少しだけ複雑な心境を感じつつもそれを自らの胸に仕舞い込んだ。

元妻の幸せそうな笑顔に喜びを感じつつも、かつての自分の無力さを見せつけられてるようでもある。


「じゃあ、私はこっちだから。」

「ああ。 元気でな。」

「貴方も。」

二人が一緒に歩いたのは僅か数分のこと。

かつては当たり前のように共に過ごした時間と比較すると、あまりに短い間だった。

互いに去り行く相手を振り返り、見ることはなかった。

ただ、いつの日かまた笑って再会しよう。

そんな夫婦としての最後の約束を、またいつの日か守るべく歩き出す。



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