二年目の春・9

さて仮設店舗の方だが、こちらは順調だった。

大きなミスやトラブルはなく、世界各地の名所の立体映像と食事を提供している。

プレオープンの時に変更した、野外でのちょっとした立体映像や行列を並ぶ人への椅子の提供も評判がいい。

ライバルとなるサークルやクラスの出し物も決して侮れないが、こちらも負けては居ない。


「でもさ。 働くって大変だよね。」

「うん。」

そして厨房で働く少女達であるが、彼女達は改めて労働の大変さを体験していた。

次々に訪れるお客さんと注文をこなして当たり前と見られる店舗であるが、当人達は一生懸命だしプレッシャーもある。

働けば報酬を得られる事から頑張っているが、基本的に同じ作業の繰り返しなので忍耐も必要になる。


「マスター見てると楽に見えるんだけどね。」

「うーん。 美味しい物作れるから自由にやれるのよね。」

少女達にとって身近な大人は両親や学校の先生に横島など居るが、一番楽しそうなのは横島だった。

毎日お客さんとばか騒ぎしながら店を営業しているのでそう見えるが、横島の場合は料理の確かな腕前があるから出来ることである。


「ねえ、マスター。 仕事って楽しいの?」

「うん? 難しいこと聞くなぁ。 俺は楽しんでるぞ。 ただ普通はどうなんだろうな。 生きていく為に仕事してる人も居るし。 そんな仕事見つかればいいけどなぁ」

厨房には何人かの少女達と大人は横島だけなので、必然的に横島に疑問がぶつけられるが横島は困った表情をする。

仕事に楽しみや遣り甲斐を持てればそれが一番だろうが、世の中そんなに楽じゃないのを横島も理解している。

まあ横島は今は道楽みたいな生き方が出来るのでいいが、現実的に考えてみるとなかなか難しいのは流石に理解していた。


正直横島自身は一般社会での就職経験はない。

前の世界のオカルト業界は特殊だったし、美神事務所は更に特殊だった。

楽しかった事も多いが、キツかったことも多く死の危険すら山ほどあった。

報酬と仕事内容が割に合っていたかと言われると、当時は合ってはないだろう。

現在の楽な生活に繋がったと思えば悪くはないが。

なんというか自分の事ながら、横島は自身の経験が少女達の参考に全くならない事を改めて理解していた苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


「やっぱりアレね。 養ってもらうのがいいわね!」

「あっ、それ良さそう!」

「お前らなぁ。 中学生らしい夢とか目標とかないのか?」

そんな微妙な表情をする横島に美砂と桜子は早々と男性に養ってもらうことを口にして、周りから笑われて横島も流石に呆れてしまう。


「養ってもらいつつ、やりたい仕事をやればよくない?」

横島自身もかつては嫁さんを手に入れて退廃的な生活をなんて言っていたので、決して美砂達の事を笑えないのだが。

聞く人が聞けば世の中を舐めてると怒りそうな話でもあるが、横島は意外になんとかなるものだと思い軽く聞き流している。

まあ中学生に将来を真剣に考えて努力しろなどと言っても、出来ない人は出来ないのは横島自身が身をもって理解していた。

ただまあ、女の子は強かだなと少し他人事のように考えていたが。


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