二年目の春・9

「それでは優勝者を発表します。 本大会は味のみの選考ではありません! 納涼祭本番を想定して調理スピード・値段・屋台らしさを考慮した総合点による優勝となります。」

優勝者はかつて木乃香に破れた男だった。

野外と祭りというポイントを自身の経験に生かしたのが優勝の秘訣となる。

ただ急遽二位と三位の人も、納涼祭本番での屋台を出す権利が与えられる事となった。

二位はパフォーマンスが光った高等部の男性で三位はフルーツパンケーキを焼いた女子大生となる。


「おめでとうございます!」

優勝者には賞金十万円も与えられタマモからみんなに花束が贈呈されると、会場からは拍手が巻き起こる。

大規模なイベントの多い麻帆良祭では、決して目立つイベントでも話題になったイベントでもない。

しかし優勝者と入賞者達にとっては一つの結果として忘れられないイベントとなるだろう。

そして僅かばかりのチャンスが今回の三人の人生に多少なりとも影響することになる。


「おっ、そろそろ店に行かんと駄目だな。」

「お昼時やし混んでると思うわ。」

「働くわよ!」

横島とタマモと木乃香は大会が終わると、見物していた美砂達と合流してクラスの出し物である店舗に急ぐ。

この日はお昼からなので時間的にギリギリだった。


「わたしもいつか、みんなのまえでおりょうりする!」

「タマちゃんならやれるわ。」

「うん。 人気でそう。」

混み合う人の中を抜けるように移動する一行であるが、タマモは去年と今回の料理大会を見て自分も参加したくなったらしい。

元々料理は好きなのだ。

食材がいろんな人の手により、それぞれ違う味になる。

タマモにとって料理は魔法のように不思議なものだった。


「あっ、タマちゃんだ!?」

「タマちゃんが来たよ!」

そのまま3ーAの店舗に到着すると、真っ先に注目を集めたのはやはりタマモだった。

顔なじみの女子中高生に声を掛けられたタマモは、嬉しそうにブンブンと手を振り答えている。


「うーん。 タマモの撮影会でも儲かりそうだな。」

「横島さん。 それはあかんわ。」

ちなみに放っておくとどんどん人気になるタマモに、横島は少し昔を懐かしむように商売になるのではと口にして木乃香に呆れられていた。

横島も半ば冗談であるが、令子辺りが居れば本気でやり兼ねないなと思うと可笑しくもある。


「絵本は現在品切れです。 予約はこちらでお願いします!」

なお原作がタマモで作画がハルナの絵本は、バカ売れしてしまい早くも品切れになっていた。

急遽予約販売に切り替えたようで、ウハウハの表情をしたハルナが元気一杯に予約の受付をしている。


「うーん。 抜け目がないというか。 何と言うか。」

半ば独断で始めた絵本はお店のお客さんが、お土産や記念にと買っていく流れが出来てるらしい。

横島達はそんなハルナに自分達も負けてられないと、仕事を始めることになる。

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