二年目の春・9

そして木乃香と戦ったパティシエの料理が運ばれて来る。

実家は有名な洋菓子店であり、過去には麻帆良内外の料理大会で入賞経験もある男の料理に注目が集まる。


「あっ、おいしい!」

男のスイーツに最初に反応したのはタマモだった。

クンクンと匂いを嗅ぎ一口食べると笑みが溢れる。


「これは考えたなぁ。」

「屋台ならではのスイーツや。」

「よく食べるようで食べる機会は多くないネ。」

横島も木乃香も超鈴音も五月も誰もが唸った彼の料理は、焼きりんごと焼きバナナだった。

今回はお料理研究会の特設キッチンのためフライパンを使ったが、本番は鉄板を使うことを想定して焼きりんごはアルミホイルで蒸し焼きにされている。

バーベキューなどで食べられるお手軽スイーツで、作るのもそう難しくない。

ただしプロ級のパティシエの技が光る一品で、ひと味違うのが大きなポイントだろう。


「あくまでも屋台で作ることを意識しました。 チョコバナナにリンゴ飴。 それらのインパクトと味に負けないことを考えました。」

男の視線は木乃香に向いていた。

木乃香ならばどんなスイーツを作るか、そんな事を考えた結果から生まれた物なのだ。

季節的に冷たいアイスやスイーツもいいだろうが、男は納涼祭の屋台で無ければ食べられない物として熱々の焼きりんごと焼きバナナを選んだらしい。

焼きバナナの方は最後にオリジナルのチョコレートソースを掛けていて、溶けたチョコが微かに焼かれた香ばしさと甘さが絶妙だった。


「うーん。 あんまり偉そうなこと言うつもりないけど。 あとは楽しんで作って欲しいかな。 お客さんが笑顔で食べる姿でも想像してさ。 お祭りだからちょっとくらい焦げたりしてもいいし。 遊び心がもう少しあれば面白いと思う。」

最後に横島はアドバイスを求められて困った表情をする。

昨年の料理大会では木乃香に余計なプレッシャーを与えようとしたこと男だが、なんとなく不器用さが伝わって来てしまい懐かしさが込み上げてくる。

令子や雪之丞など、身近にも不器用な人達は居た。

なんとなくそんな昔を思い出すような男に、横島はアドバイスを求められて技術ではなく心の持ち方を口にしてしまう。


横島とは生き方が違う男。

しかし男からは新堂美崎や木乃香のスイーツを感じさせる何かがある。

それは引いては横島が木乃香と作るスイーツにも繋がる物なのだから、不思議な感覚だった。


「思った以上にレベルが高いな。」

「この中から一人しか選ばないのか?」

「屋台を増やせないか?」

そのまま審査は続くが、途中から大学生達は思った以上のレベルが高い料理の数々に選考に頭を悩ませることになる。


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