二年目の春・9
「本当に参加したのかよ?」
「ああ。 ここを超えないと俺は先に進めない。」
料理大会の前日。麻帆良大の男子寮では一人の男性が翌日の大会本選に向けて料理の試作を繰り返していた。
昨年の体育祭で決勝まで進みながらも、木乃香と新堂美咲に敗れた男である。
自分にも他人にも厳しい男は、あの後もひたすら学業と両立して己の腕を磨いていた。
半ば一方的にライバル視していた新堂美咲は、すでに社会人となり新たな道を歩いていて今後大会で会うことはないだろう。
「と言ってもさ。 姫は審査員で大会に出ないんだぞ?」
自分に厳しい男は、何よりも昨年の体育祭の料理大会を台無しにした自分が許せなかった。
新堂美咲の最後の大会で、正々堂々と戦えなかった事を誰よりも悔やんでいる。
それ故に男は今年の体育祭の料理大会で新堂美咲と並んだ木乃香と正々堂々と戦うべく努力していたが、偶然にも納涼祭主催の料理大会が行われることを知った。
しかも審査員は超鈴音や木乃香だというのだから、男は昨年の自分とは違うということを自らの誇りにかけて証明すべく参加を決めた。
「分かってる。 これは俺の問題だ。」
木乃香にとって自分が眼中にないのは男も理解している。
正確には料理で人と競うという事に意味を見出だして無いことを理解していた。
新堂美咲もそうだった。
自分の力を試す為にチャレンジしてどう評価されるかは気にしたが、人より上だとか下だとかはあまり気にしない様子だった。
「屈折してるよな。 お前って奴は。」
実は男は誰よりも新堂美咲のスイーツに魅了され、彼女の生き方に憧れている一人である。
そんな男が真逆の生き方と価値観から新堂美咲に挑んでいた事を知るのは、数少ない仲間達だけだ。
すでに越えられなくなった彼女の代わりを木乃香に求め出した男に、仲間の一人は困ったようにため息を溢す。
別に犯罪ではないし、競い合うのも悪くはない。
しかし中学生の木乃香を一方的にライバル視する男は、端から見ると少し危ない男だった。
「お前さ。 一回合コンでも行った方がいいぞ。 世の中はもっと広くて楽しい。 真面目すぎるんだよ。 お前は」
パティシエとして菓子作りにしか興味がないような男に、仲間達は呆れたように彼の欠点を伝えるが、人の生き方というのはそう簡単には変わらない。
明日の大会で勝っても何も変わらないだろう男を、仲間達は見守るしか出来なかった。
「ああ。 ここを超えないと俺は先に進めない。」
料理大会の前日。麻帆良大の男子寮では一人の男性が翌日の大会本選に向けて料理の試作を繰り返していた。
昨年の体育祭で決勝まで進みながらも、木乃香と新堂美咲に敗れた男である。
自分にも他人にも厳しい男は、あの後もひたすら学業と両立して己の腕を磨いていた。
半ば一方的にライバル視していた新堂美咲は、すでに社会人となり新たな道を歩いていて今後大会で会うことはないだろう。
「と言ってもさ。 姫は審査員で大会に出ないんだぞ?」
自分に厳しい男は、何よりも昨年の体育祭の料理大会を台無しにした自分が許せなかった。
新堂美咲の最後の大会で、正々堂々と戦えなかった事を誰よりも悔やんでいる。
それ故に男は今年の体育祭の料理大会で新堂美咲と並んだ木乃香と正々堂々と戦うべく努力していたが、偶然にも納涼祭主催の料理大会が行われることを知った。
しかも審査員は超鈴音や木乃香だというのだから、男は昨年の自分とは違うということを自らの誇りにかけて証明すべく参加を決めた。
「分かってる。 これは俺の問題だ。」
木乃香にとって自分が眼中にないのは男も理解している。
正確には料理で人と競うという事に意味を見出だして無いことを理解していた。
新堂美咲もそうだった。
自分の力を試す為にチャレンジしてどう評価されるかは気にしたが、人より上だとか下だとかはあまり気にしない様子だった。
「屈折してるよな。 お前って奴は。」
実は男は誰よりも新堂美咲のスイーツに魅了され、彼女の生き方に憧れている一人である。
そんな男が真逆の生き方と価値観から新堂美咲に挑んでいた事を知るのは、数少ない仲間達だけだ。
すでに越えられなくなった彼女の代わりを木乃香に求め出した男に、仲間の一人は困ったようにため息を溢す。
別に犯罪ではないし、競い合うのも悪くはない。
しかし中学生の木乃香を一方的にライバル視する男は、端から見ると少し危ない男だった。
「お前さ。 一回合コンでも行った方がいいぞ。 世の中はもっと広くて楽しい。 真面目すぎるんだよ。 お前は」
パティシエとして菓子作りにしか興味がないような男に、仲間達は呆れたように彼の欠点を伝えるが、人の生き方というのはそう簡単には変わらない。
明日の大会で勝っても何も変わらないだろう男を、仲間達は見守るしか出来なかった。