二年目の春・9

「うわー!」

飛行船にて麻帆良市上空の遊覧飛行を楽しんだ横島達だが、続いて訪れたのは麻帆良大にある植物園だった。

大型の温室もあって世界各地の植物があり、植物研究から品種改良まで行ってる施設になる。


「みてみて。 みたことない、おはながあるよ!」

植物園はいくつかの区画に分かれていて、日頃は一部を土日限定で一般公開しているが、この日はほぼ全ての区画で一般公開されていた。

日本ではまずお目にかかれない花も多く、賑やかな麻帆良祭では比較的のんびりと見学出来るイベントとして人気だ。


「あーあ。 薔薇の花束でもくれる男性は居ないかしら?」

「マスターちょうだい!」

タマモは例によってハニワ兵達とビッケとクッキを抱えながらチャチャゼロを背負い、色とりどりの花を見てはクンクンと匂いを嗅いでいる。

中には強烈な匂いの花があり脱兎の如く逃げることもあったが、新しい花を見つけると再び突撃していた。


「お前ら。 俺が薔薇の花束なんか持ったら絶対笑うだろ?」

「そんなことないわよ。 多分……。」

「多分ってなんだ。 多分って。」

横島と美砂達はそんなタマモを微笑ましげに見ながらのんびりと見学していたが、ふと薔薇の花を見付けた美砂と桜子は横島にねだるようにほしいと言う。

円はまたかと半ば笑いながら見ているが、横島自身は自分が薔薇の花束なんぞ贈っても笑われるだけだという印象が根強い。

三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼い頃より三枚目として扱われた過去は今にも影響が残っている。

正直なところ真面目していれば、明らかな三枚目でもない。

無論ピートやナギには負けるのは確かだが。


「マスターって。 屈折してるわよね。」

「うんうん」

いろいろ屈折してるなと円は思い、美砂と桜子も同感だと頷くが、積み重なった過去はそう簡単には変わらない。

まあ美砂達も、横島がこれでもマシになった事は気付かなかったらしいが。


「おはなさんのたね?」

「いらっしゃい。 そうだよ。 ここにあるのは一般家庭でも育てやすいからオススメだね。」

一通り見学を終えると、臨時のテントによる花の苗や種の販売が行われてるところにたどり着いた。

園芸系の学部の生徒が育て方なんかをアドバイスしながら売っていて、タマモもまた庭の花壇の世話をしてるだけに興味津々な様子で見ている。


「タマモ。 なんか欲しいのか?」

「うーんとね。 これとこれ!」

日頃からおもちゃなんかを欲しがる事はまずないだけに、横島は何か買ってやろうかと声をかけると、タマモは幾つかの種を指差した。


「薔薇の花束もあるじゃんか。 買ってやろうか?」

「ちがーう!! そういうのは、もっとこうムードがある場面で欲しいの!」

なお薔薇の花束も販売されていて横島は先程騒いでいた美砂と桜子に声をかけるが、流石に違うらしくちょっとお怒りの表情で怒られてしまう。

もちろん横島に悪気はないし、言いたいことも理解はする。

しかし横島自身はまともな恋愛経験が乏しいので、理解はしても実際にムードとか言われてもハードルが高い。

ちなみに花束くらいならばアシュタロス戦後妙神山に住んでいた頃に、小竜姫を怒らせた際にお詫びに贈ったことがあったりする。

贈ったその日は仕方ないから許してあげましょうという態度だったが、翌日からしばらくは逆に機嫌が良かったのは覚えていた。

元々は横島の父親である大樹が妻の百合子の機嫌を取るためによく花束を買っていたのを真似しただけだったりするが。


61/100ページ
スキ