二年目の春・9

「うわぁ。たかいね!」

二日目のこの日横島とタマモは、お昼頃から店の当番になっている。

朝の開店準備を終えた二人は、横島宅のドジなハニワ兵と白いハニワ兵にチャチャゼロと、美砂達と桜子が連れてきたビッケとクッキと一緒に飛行船に乗りに来ていた。

なおアナスタシアは朝が得意ではないので、チャチャゼロだけ一緒に回るらしい。

日本でも数少ない飛行船が常時あるのが麻帆良であり、土日なんかは天候次第で遊覧飛行をしている。

のんびりと飛ぶ飛行船から見下ろす街はいつもと違う景色であり、タマモは二体のハニワ兵とビッケとクッキを両手に抱えて並んで街を見下ろしていた。


「ねえ。 前から聞きたかったんだけど。 魔法で空飛ぶ時って高くても怖くないの?」

「そりゃ高く飛べば怖いぞ。 感性は人なんだから。 魔法もヘマしたら落ちるしな。」

「やっぱりそうなんだ。 高所恐怖症の人だと駄目そうだね。」

遠くを見ると景色がよくていいが、真下を見下ろすと結構怖い。

美砂は前々から気になっていた魔法による飛行について尋ねるも、リアルな魔法は技術もさることながら意外に大変なんだなと改めて感じていた。


「俺は落ちない自信があるが、高く飛ぶとそれなりに怖いぞ。」

かつては宇宙まで行き竜神の装備を付けてはいたが、生身で大気圏に突入したりとあり得ない体験の数々をした横島であるが、空を飛ぶとそれなりに恐怖心はあるらしい。

落ちはしないが、やはり地に足がついてないのは慣れないようである。


「マスターが飛んでるとこ、あんまり見たことないわよね。」

「ぶっちゃけ瞬間移動の方が早いからな。」

この世界に来てから平和な日々を送る横島が、一番使う術は瞬間移動になる。

横島も空を飛んだり瞬間移動が出来たら便利でいいなと昔は考えたりしたが、いざ自分が仕えるとなると意外に使う機会が少ないのが現状だった。


「それに使わなくても困らんしなぁ。 俺の場合、変なとこでドジ踏むからさ。」

文珠もあり術でも大抵のことは出来るが、目新しさがなくなると使わない生活が楽だった。


「ねえねえ、はにわさんだよ! おーい、わたしはここだよー」

「流石に見えないんじゃあって、手を振ってるわね。」

そのまま景色を見ながら横島の過去の失敗談を聞く美砂達だが。

タマモが地上のハニワ兵を見つけて手を振ると地上のハニワ兵達も手を振ってくれていて、横島と美砂達も手を振って返していた。

個性的なハニワ兵達は人の姿になっても目立つようで、飛行船の上からでもなんとなく分かるほどだったのだ。


「ハニワさん達ってさ。 どっかマスターに似てるわよね。」

「うんうん。」

「なんか目立っちゃうっていうか……」

周囲に溶け込んでるようで浮いてるハニワ兵達は、やはり横島に似ていると美砂達はしみじみと思う。

無論いい意味でも悪い意味でも。


「おっ、美人発見!」

「マスター。 私達と一緒なのにいい度胸ね。」

ちなみに横島は条件反射的に美人を見つけてしまうが、乙女のプライドに賭けて美砂は認められない。

桜子と共に横島の両手に腕を絡ませて、アピールを始めるとまた何時のもように騒がしくなってしまっていた。


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