二年目の春・9

その後、この日は夜までのんびりとして麻帆良に戻る。

まだ一日目ということもあり、流石に徹夜する者は居なく時間も深夜だった事から寮に戻り休んでいた。


「おはよう!」

翌朝になると横島はタマモとさよを連れて、仮設店舗に仕込みに来ていた。

昨日の平行世界の夢の話は、タマモも他の少女達も少なくとも表面的には気にした様子はなく元気な笑顔だった。

平行世界の自分達に戸惑いはしたが、現状と平行世界があまりに違いすぎて実感がないのが幸いしたのだろう。

子供先生なんて居ないし、怪しげな事件に巻き込まれることもない。

それに横島や近右衛門達が何故修学旅行期間中に動いたのか謎が解けただけ、少女達にとってはプラスだったかもしれない。

未来は自分達時代なんだと、改めて理解できたのは悪いことではないだろう。


「あー、それはそろそろいいぞ。」

何時ものように仕込みをする横島を手伝いながら、のどかはクラスメート達を少し見ていた。

超鈴音も少なくとも平行世界の時とは違うと、のどかには見えている。

言葉で説明すると難しいが、周りに合わせてるようで一歩引いた感じがあった超鈴音が今はそこまで感じないのだ。


「やあ、みんな早いね。 何か手伝うことはあるかい?」

「高畑先生。 ネクタイ曲がってるよ?」

「あれ? そうかい? いや、参ったな。」

「働きすぎじゃないの? 先生。 休まなきゃ駄目だよ。」

そしてのどかがもう一人変わったなと感じるのは、高畑であった。

いい先生だしのどか自身も男性ということであまり得意ではなかったが、男性にしては話せる相手であったことに変わりはない。

そんな高畑は以前よりずっと身近な存在となった。

平行世界では高畑が担任では無くなっていたので何とも言えないが、少なくとも夢の中の高畑よりはのどかは目の前の高畑の方が好きだった。

無論平行世界の自分達を全て悪いとは見てない。

一生懸命だったし、何より信頼出来る人達と一緒だったのは素直に良かったなと思う。

そもそも横島という人が、いろいろ反則のような存在なのは今更な訳だし。

なんとなくいろいろな厄介事を回避するように動いていたのかなと感じるらしい。


「のどかちゃん! もってきたよ!」

「ありがとう。 じゃあ一緒に皮を向こうね。」

「うん!」

しばし周囲を見ながら思考の渦に入り込んでいたのどかだが、タマモが玉ねぎを運んで来ると一緒に皮を剥いて切っていく。

相変わらず包丁は使わせていないが、細かい雑用はタマモにお願いするし、タマモも一緒に作業をする事を何より楽しんでいた。

玉ねぎの皮を剥きながら、少し目に涙を浮かべるタマモにのどかは周囲の少女達と一緒に笑ってしまうが。

平行世界のタマモはどうしていたのかなと思うと、のどかは出会えて本当に良かったとしみじみと実感していた。



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