二年目の春・9

「おう、来たか。」

 麻帆良ホテルのスイートルームに行くと、あやかの祖父の雪広清十郎と父の雪広政樹夫妻や木乃香の母である穂乃香も来ていた。


「どうも。 お久しぶりです。」

「来ないかと思って、少しヒヤヒヤしたぞ。」

「いや~、そんな訳ないじゃないですか。」

 雪広家の面々は横島が来たことに、一様にホッとした表情をする。

 横島自身は約束を破った事などないしそんなことあり得なくないと口にするが、あまり気が進まないのは理解しているらしい。


「あら、夕映ちゃん。 制服で来たの?」

「はい。 無難でいいかなと。」

「駄目よ。 女の子なんだから。 おしゃれしないと。 まだ時間あるわ。 私に任せて。」

「あの……、私は別に制服で……」

「遠慮しなくていいわ。」

 一方夕映はあやかの母と穂乃香に捕まっていた。

 自分は脇役だからと無難に制服で来たのだが、二人に半ば無理矢理別室に連れて行かれて急遽ドレスを取り寄せ着替える羽目になる。

 特にあやかの母は柔らかい態度ながら押しが強くて、夕映はあれよあれよと着替える方向で話が進んでしまった。


「うーん。 夕映ちゃんも押しの強さに負けたか。」

「若い子も少し来るけど、女の子はあまり制服で来る子は居ないからね。 任せるといいよ。」

 横島は母親達の押しの強さに自身の母を思い出したのか苦笑いを浮かべて見ていたが、まあそれなりに理由はあるらしい。

 パーティーには支援企業の子息達や生徒会などからも代表者が参加するが、やはり女子は着飾る者がほとんどのようだ。

 ちなみに夕映は麻帆良カレーの実行委員としての正式参加なので、着飾っても勘違いしてると見られることはない。


「去年のクリスマスパーティーで一通り挨拶はしたからね。 今回は楽だよ。 そう難しい話をする訳じゃない。」

「魔法世界の騒動も関係ないからの。」

 パーティー自体は特に問題はないらしく、横島は男性陣と夕映の着替えを待つことにするが。

 クルト逮捕で揺れてる魔法世界や対応に追われる魔法協会とは違い、支援企業はそこまで影響はないらしい。


「詠春のとこは大変みたいだけどね。 ただ詠春もコメントを出す以外にやれることはないからね。」

 クルトの件で身近で大変なのは対応に追われる魔法協会と、クルトの師であった詠春である。

 ただ詠春とすれば以前突き放して神鳴流とも関係はなく、正式な弟子でないと言ったので、かつての仲間であり教え子のクルトの逮捕に残念だと短いコメントを発表したのみだった。

 少し冷たいようにも感じるが、何も知らないというスタンスである以上は何も言わない方が良かった。

 実際元老院の陰謀説も魔法関係者の間では囁かれていて、クルトに同情する声もない訳ではない。

 どこぞの似非紳士のように二枚舌も三枚舌も平気で使い、謀略すら行う元老院の信頼は未だに高くない。

 どうせ訳ありなんだろうと言うのが大半の見方で、クルトのクーデターによる国家反逆罪をそのまま受け止める人は、少なくとも外交筋やメガロメセンブリア外にはあまり居なかった。


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