二年目の春・9

横島の家はハニワ兵も出掛けてるようで留守だった。

夕映は一旦女子寮に着替えに戻ったので、横島は一人でパーティー用にハニワ兵が用意したスーツに着替えていた。


「相変わらず似合わんなぁ。」

鏡を見ながらネクタイを締めていく横島であるが、やはり自分にスーツは似合わないなと苦笑いを浮かべている。

あれから随分と時が過ぎたが、今でもジーンズを着て除霊に行く夢を見ることがあった。

横島の人生では尤も苦しく辛い時だっただけに、少し複雑な思いもあるが。


「お待たせしました。」

「なんだ。 制服なのか。 ドレスでも着たらいいのに。」

しばらくすると着替えた夕映が訪れるが、夕映の服装は学校の制服であった。


「それこそ場違いですよ。」

「そっか? ドレス貸そうか?」

今夜のパーティーは麻帆良学園の支援企業のパーティーであり、当然学生はほとんど居なく中等部では夕映とあやかくらいであろうか。

女性陣はそれなりに着飾った人達が多いだろうが、別に制服でも問題はないはずだ。

横島はどうせならドレスをと勧めるが、夕映はあまり目立ちたくないので制服で十分だった。


「それより早く行かないと遅れるですよ。 麻帆良祭期間中はあちこち通行止めなのと、観光客で道路が混みますから。」

「大丈夫だって。 瞬間移動すりゃ一瞬だ。」

「今なら普通に行っても間に合いますよ。」

一方の横島は着替えてからインスタントコーヒーをのんびりと飲んで夕映を待っていて、最悪瞬間移動すれば余裕だと寛いでいる。

ただまあ、この時期の麻帆良は交通機関も道路も混むので早めに行く必要がある。


「そんじゃ、行くか。」

横島からすれば瞬間移動でいいんじゃないかと考えもするが、間に合う時間なんだから普通に行こうと言う夕映に促されて家を出た。

移動は路面電車とバスになる。

車はあちこちで渋滞しているし、パーティー会場ではお酒も飲むのでその方が良かった。


「あっ……」

「どうした?」

「空を飛んでる人が居ますね。」

「ガンドルフィーニ先生だな。 トラブルか?」

「よく見えますね。 あの遠い人影を。」

「その気になれば地球の裏側だって見えるよ。」

近所のバス停まで並んで歩く二人だが、夕映は偶然にもほうきで空を飛ぶ人影を目撃する。

魔法使いが多い麻帆良だが、空を飛ぶ人を見掛けることはあまりない。

認識阻害の魔法は完全じゃないので、常識ある魔法使いはよほどの事情がないと使うことはないのだ。


「もしかして、透視とかも出来ます?」

「……まあな。」

「みんなには黙っててあげますよ。」

「ちょっと待て。 やましいことに使ったことはないぞ!」

「無くても疑われますよ。」

「……頼む。」

ただこの時、横島はつい口を滑らせてしまい、夕映に透視が出来る事を見抜かれてしまった。

もしかして透視で覗きでもと一瞬疑う夕映だが、横島の場合は悪用すれば犯罪のやりたい放題なのは今に始まった事じゃない。

信じているし、ちょっとくらい覗くなら男だし仕方ないかなと自身の胸に収めることにする。



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