二年目の春・9

「はいはい、大丈夫よ。 お母さんにすぐに会えるからね。」

一方この日の刀子は、担任のクラスに顔を出した後は広域指導員として麻帆良の街を巡回していた。

と言っても彼女がしてるのは、道案内や迷子の世話にトラブルの仲裁などが主になる。

元々彼女は近右衛門の直属の部下の為、フリーな立場であるので裏表問わずあちこちを駆け回っていた。

彼女の実力からすれば地味で危険のない仕事だが、刀子が必要になる程の案件は高畑が解決するし、本来の役目である要人の警護の人員配置以外はこれといって裏の仕事はない。

まあ麻帆良祭のどさくさ紛れにやってくるスパイや工作員の類いは密かに刀子が捕らえる場合もあるが、実際にそう頻繁に刀子が必要な戦闘なんてある訳がなかった。

結局のところ人が一番必要なのは、一般客の案内や迷子の保護になる。


「あっ、先生。 また迷子ですか?」

「そうなのよ。 お願いね。」

「はい。 任せて下さい!」

麻帆良祭において迷子は市内各地にある迷子センターに集められ、市内の街頭スピーカーなどで保護者を呼ぶことになる。

各迷子センターとの連携なんかもお手の物で、あちらの迷子センターに居たのに情報が伝わらないで、保護者が迷子センターにも居ないと、街を探して歩くことなどないようにしていた。

3ーAのレストランもそうだが、ゲリライベントの類いもあるので、何処でどんなイベントや出し物をあるか把握するのはかなり難しく、また普段と違った景色となり道が通行止めになったりするので迷子になる人も多い。

期間中は生徒・学園関係者・OBで延べ数千人のボランティア警備員や案内人など働く事で、麻帆良祭は支えられている。


「えーと、このイベントは……。 あちらですね。 案内します。」

麻帆良市内は路面電車にバスなど市内の移動手段はあるが、どれも混雑していて、何に乗りどう移動するかは結構重要になる。

特に市外からの一般客は戸惑う事も多く、案内は欠かせなかった。

まあ、中には忙しい刀子をナンパしようとする輩もいて、地味にキレそうになっていたが。


「ちょっと、貴方達! ちゃんと許可取ったの!?」

なお刀子のような学園側の人間を悩ませるのは、当局に届け出もなくイベントや屋台を出す者達の存在だ。

学園の生徒から部外者まで様々であり、内容も様々になる。


「こんな物、販売する許可は出しません!」

ちなみに道案内を終えた刀子は裏路地で違法DVDを販売していた怪しげな成人男性達を見付けると、身柄を捕らえて警察に引き渡した。

違法なアダルトDVDなのは明らかで、男達も逃げようとしていたが、見逃すはずはない。

場所にもよるが、国道や県道以外はほとんど麻帆良学園の私有地なので、不法侵入で警察が身柄を拘束することは可能だった。

まあ学生ならば警察に引き渡す事はなく、お説教で済ませる事になるが。

もちろんゲリライベントの中には違法性もなく、学生達の多少の悪のりで問題ない物も多々ある。

しかし何かあった場合の責任問題や、ゲリライベントを探す一般客の為にも麻帆良祭実行委員会では無許可のイベントや出し物は出さないように指導していた。


「このババアが!」

「誰が……ババアですって?」

なお、違法DVDを販売していた男達は警察に連行される際に、言ってはならない捨て台詞を吐き、男達と無関係な警察官が萎縮するほど殺気を飛ばしていたが。

二十代の女性に言ってはいい言葉ではなく、いろいろ恋愛関係がデリケートな刀子の禁句でもある。

最終的に男達は警察官に助けてと、すがるように連行されたのは言うまでもない。

警察官は表向きは冷静に受け止めていて、流石と言えよう。

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