二年目の春・9

同じ麻帆良カレーと言っても、二十店以上あるカレーからどれを選ぶかはなかなか難しいものがある。


「あっ、うちのおみせがある!」

タマモは行列を並ぶ人々をキョロキョロと見ながら、クンクンと匂いでどれを食べようかと悩むが、気になる匂いを見付けたのか行列の隙間を駆けて行く。

そこにあったのはマホラカフェのカレー屋台だった。

店の外観の写真が張られていて、元祖麻帆良カレーとして提供店の中でも上位の人気らしい。


「タマちゃん。 いきなり走ったら駄目や。 危ないえ。」

「ごめんなさい」

「こんにちは。どうですか?」

「ああ、皆さん。 お陰さまで大繁盛ですよ!」

せっかくだから少し食べていこうかという話だったが、タマモが店の屋台に来てしまったので、夕映とのどかは先に店の屋台を任せている雪広グループの社員に挨拶をする。

食品開発のプロであり、そこらの料理人よりも確かな腕前を持つ人が店の屋台を仕切っていた。


「お嬢ちゃん。 どうしたんだい?」

「あじみさせてください!」

「ちょっと、タマちゃん。 ダメよ。」

「アハハ。 いいですよ。 お嬢ちゃんの店のカレーだもんな。」

タマモは屋台の中に入り、煮込まれてる麻帆良カレーの鍋の前に行くと臆することなく味見を要求してしまい、明日菜と木乃香を慌てさせる。

しかし屋台の関係者はタマモがマホラカフェの子供だと知ってるようで、快く味見をさせてあげた。


「うちとおなじだ!」

「本当。 タマちゃん?」

「うん!」

ただ味見をしたタマモが屋台のカレーとマホラカフェのカレーが同じだとビックリしたように告げると、明日菜達は少し驚きタマモを見る。

味覚の鋭さでタマモに勝てるのは横島くらいで、同じ料理でもちょっとした味の変化に気付くだけに驚きらしい。


「流石っすね。 本当に同じだ。」

「いや、結構苦労したんだよ? 火力とか違うからね。 でも僕はこういう味を再現する仕事とかもしてるからさ。」

タマモの発言に横島達も味見をするが、やはりカレーは横島の味をほぼ忠実に再現してる。

元々イベント用の料理なので、誰が作ってもそれなりになるはずだが、ここまで再現されるとは思わなかったらしい。

関係者は食品開発のプロであり、日頃からプロの味を再現しては商品化をしている人達になる。

レシピやコツを教わった以上は、再現出来るだけの力量があった。

工場で大量生産ではない分だけ、個人の力量を遺憾なく発揮したようだった。


41/100ページ
スキ