二年目の春・9

「あっ、タマちゃんだ! タマちゃんが来た!」

乗馬を楽しんだ一行は女子中等部に来ていた。

すっかり中等部では有名人のタマモの周りには、あっという間に人が集まる。

みんなそれぞれにタマモを自分のクラスや部活の出し物やイベントに誘っていて、タマモの手には割引券やら無料券が貯まっていく。


「マスター。 相変わらず女ばっかり連れて。」

「一緒に麻帆良祭見物してんだよ。 それよりそんなに貰っても行けないかもしれんぞ。」

「いいわよ。 時間あったら来て。」

女子中等部だけでもかなり広くクラスが多い。

タマモはみんなから声を掛けられて嬉しそうにしてるが、全部回っていたら、女子中等部だけで麻帆良祭が終わりそうな規模である。

無論、女子中等部の少女達は横島がそれなりに忙しいのを理解してるので、来れなくてもいいからという程度のノリであったが。

横島も別に無視されてる訳ではない。

親しみやすい近所のあんちゃんといった感じに見られる事が多いが、やはり本物の人気者は違うと横島は少し昔を懐かしみ思う。

幼い頃の銀一やピートなど、同性であったが横島の身近には人気者が多かった。

ちなみに相対的にここではあまり騒がれないのは、アナスタシアである。

同性の若い少女達からすると、アナスタシアはどう接していいか迷う人が多い。

まあ、噂の横島の元カノを見ようと注目はされているが。

横島も決して見た目が悪い訳ではないが、誰もが見惚れるイケメンではない。

されどアナスタシアと横島が並ぶと、意外にお似合いなのねとあちこちで囁かれることになる。

何故別れたのか、麻帆良に来た理由はやはり横島を追い掛けて来たのか。

いろいろな噂が飛び交う事になるが、今更だった。


「わーい! わたしだ!」

まるでスターのように多くの少女達に囲まれながら、美術部の展覧会場に行くと、明日菜が最後の麻帆良祭だからと描いたタマモの絵があった。

しかしその絵は、タマモが遊び疲れて眠った後の姿だ。


「流石アスナだね。 タマちゃんのお宝表情だよ!」

「うんうん。 描いてる側と描かれる側の関係がよくわかる。」

タマモは自分が寝てる姿を初めて見たからか、驚き不思議そうに絵を眺めていたが、美術部員達の評価は高い。

細かい絵を書く技術などではなく、見る人を暖かい気持ちにさせるような、そんな絵なのだ。

日頃の笑顔で元気なタマモは多くの人が見たことあるが、安心して安らいだように眠るタマモの姿は、身近な少女達以外は見たことがない。


「こんどはわたしが、あすなちゃんをかく!」

「ありがと。 楽しみにしてるわよ。」

感性豊かなタマモは、絵から明日菜の愛情を感じるのだろう。

嬉しそうに今度はお返しに、自分が明日菜の絵を描くと約束する。

絵のモデル本人が来たと言うことで、タマモが絵の前に立ち少しぱかり撮影会が起きたのはやはりと言うべきか。

絵の題名は『休息』というシンプルな物だったが、それがまた人々の想像を掻き立てることになる。

本来の歴史と違い変わった明日菜の絵は、全く別の未来にゆくという明日菜の未来を暗示してる絵でもあった。



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