二年目の春・9

麻帆良の郊外には農業や畜産系の大学の施設がある。

その中には馬を飼育している学部もあり、馬術部の馬場はそんな場所にあった。

自身も狐の化身だからか、それとも言葉が通じるからかは不明だが、タマモは動物好きである。


「わーい! おうまさんだ!」

「あら、いらっしゃい。」

馬術部の乗馬イベントは素人でも乗馬を体験出来るイベントらしく、結構賑わっていた。

あやかの姿を見つけると、嬉しそうに手をブンブン振るタマモにあやかも優しく微笑む。


「タマモちゃはまだ小さいので、私と一緒に乗りましょう。」

「はーい!」

ただまだ幼いタマモは、はっきり言えば乗馬をするには早すぎる。

身長が足りないし、流石に一人では危ないからとあやかが一緒に乗ってくれるらしい。

タマモなら何となく一人でも乗れそうな気もしないでもないが、それはそれで騒ぎになるだけである。


「こんにちは!」

「ヒヒーン!」

「うん。 私はタマモ。 よろしくね!」

乗る前にはきちんと乗馬の基礎中の基礎のレクチャーを受けて、馬に挨拶をしての乗馬だ。

例によって馬とも会話したようだが、特におかしな事にはならなく乗馬がスタートする。


「あの二人上手いな。」

「外人さんは物凄く絵になる。 映画のワンシーンみたいだ。」

ちなみに他の横島達もせっかくだからと乗馬をするが、のどかと夕映は意外に高い視線になることに若干怖く感じたりしていて、木乃香と明日菜は素人にしては無難に乗っていた。

木乃香と明日菜はあやかとの付き合いも長く、雪広家絡みで数回乗った事があるのだろう。

初音と鈴江は怖がりはしないが、その手のプログラムもないので、本当に素人と同じように馬術部の人に付き添われながら乗っている。

そして馬術部の面々が驚いたのは、やはり横島とアナスタシアだった。

自然に当たり前のように馬に乗った二人に、馬も従い見事に乗りこなしている。


「上手いですわね。 馬が馴染んでますわ。」

「あっ、さやかさんじゃないっすか。 昔少しね。」

横島にはちょうど同じく馬術部に所属するあやかの姉のさやかが付き添っているが、彼女は横島やアナスタシアの裏の強さを知るのであまり驚いてはいない。

ただ横島自身ははっきり言えば乗馬は初体験であり、横島が受け継いだ経験により乗れてるだけだった。

本人としては何となく自然に乗れてるだけであり、意外に緊張していたりするが。


「なんかまるで女王様みたいだな。」

「学内に親衛隊あったはずだぞ。 写真撮れば売れるな。」

「止めとけ。 マナー違反だ。」

一方アナスタシアの方は、やはり男たちの視線を釘付けにしている。

美貌とスタイルに少し冷たい表情が、男達を虜にしてしまうらしい。

木乃香達も結構人気がある方だが、現状ではやはりアナスタシアが1枚上手だ。

ちなみに女子部員に人気なのは、横島……ではなくてタマモになる。

楽しそうに馬に乗るタマモの笑顔は、見ている者を幸せにするようだと微笑ましく見ていた。

35/100ページ
スキ