二年目の春・9

「食材は全部オッケーですね。」

「うん!」

さて仮設店舗に到着した横島達は、クラスの友人達と開店準備を行っていた。

各種仕込みは味を染み込ませる為に前日に仕込んだ物もあるが、一部は当日仕込む物になる。

横島が中心となり料理の仕込みをする中、夕映はタマモと一緒に食材の在庫を数えていた。

わんこひつまぶしの食材は元より、一口揚げパンにジュースやソフトクリームなど今年は途中で足りなくならないようにと万全を期している。

まあタマモは指を折りながら数えていたので、戦力になっていたかは微妙だが。


「はなびだ!」

「そろそろ賑やかになって来るですよ。」

正式な麻帆良祭スタート時間は午前10時からだが、朝から麻帆良祭を知らせる花火が上がっている。

タマモはその度に待ちきれないのか騒いでは、少女達を笑わせていた。


「楽しい麻帆良祭になるといいですね。」

「うん! わたしがんばるよ!」

少女達にとっても中学最後の麻帆良祭だが、タマモを見ていると今日この日という日は二度とない大切な一日に思えてくる。

いつかタマモが大人になった時、この日のことを覚えているのだろうかと夕映はふと気になる。


「写真撮ったげるわよ!」

「わーい! ゆえちゃんといっしょにとって!」

そんな時、ちょうど朝倉がカメラを片手にやって来てタマモにカメラを向けると、タマモは夕映に抱き付くと嬉しそうにブイサインをした。

タマモにとって夕映は同じ群れの仲間であり、家族に近い認識がある。

当たり前のように甘えて笑顔を見せるタマモに、夕映もまた表情が緩む。


「いいわね。 ゆえっち、いい表情をしてるよ。 タマちゃんのお母さんみたい。」

「おかあさん? ゆえちゃんはおかあさんだ!」

その表情は母性でも滲み出ていたのか、朝倉は少し茶化すようにお母さんと口にすると、タマモは嬉しいのか夕映をお母さんと呼び笑って再び抱き付く。

タマモ自身はお父さんやお母さんが居なくて、寂しいと感じた事は未だない。

少女達が帰省したりして寂しいと感じた事はあるが。

ただそれでも大好きな夕映がお母さんに見えると言われると、嬉しくて堪らないらしい。


「さあ、店内の確認をしましょう。」

「はーい。」

抱き付いて来たタマモをしっかりと受け止めて抱き締めてあげた夕映は、タマモが落ち着いた頃を見計らい次の確認に向かう。

一つ一つ確認をしてトラブルや失敗がないようにと、タマモも真剣に確認している。

この時、夕映はふと思う。

この先タマモが学校に通い出して授業参観などがあれば、誰が行くのだろうかと。

見た目で言えばアナスタシアが一番似合うが、案外自分達も行くことになれば、どうなるんだろうかと。

騒動の種は尽きないのかもしれないと、少し苦笑いが込み上げて来つつも、それはそれで楽しそうだと夕映ですら思えるようであった。

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