麻帆良祭への道

いつの間にか辺りは夜の闇が支配していた

街灯や大学部の施設の明かりが微かに辺りを照らす中、さよはようやく落ち着きを取り戻す


「あの……突然ごめんなさい」

気がつくと辺りが暗くなっていたことにさよは不思議そうに首を傾げるが、自分が悪いと思ったのか何度も頭を下げて謝り始める


「気にしなくっていいって。 それよりこれからどうしたい?」

申し訳なさそうなさよに対し、横島は笑って謝らなくていいからと告げると本題に入った

実は以前からさよが気になっていた横島が今日声をかけた理由は、さよの止まった時を動かしてやりたいとの想いからである


「これから?」

「ああ。 成仏したいとか、心残りがあるとかなら出来るだけ手伝うぞ」

突然の横島の提案にキョトンとしてしまうさよだったが、これからどうしたいと言われても正直考えたことがない為に考え込んでしまう


「なんか願いとかないか? 流石に生き返りたいとか言われても困るけどさ~」

普通の幽霊は強い願いや望みがあるはずなのだが、それがすぐに出てこないさよに横島は思わず笑ってしまいそうになる

どこか抜けてるさよの姿は、何故か出会った頃のおキヌに似ている気がするのだ


「願いかぁ じゃあ友達になって下さい!!」

「友達……?」

しばらく悩んでいたさよの意を決した答えに、今度は横島が驚きポカーンとしてしまう

それはあまりにも純粋で邪気のカケラもない願いだった

もっと無理難題でも言われるかと思っていた横島は逆に呆気にとられてしまう


「やっぱりダメですか」

驚く横島にさよは何かを勘違いしたらしく、悲しそうな表情でがっかりする

横島は逆の意味で驚いたのだが、さよはさよで願いと言われて必死に考えた結果だった

六十年以上話し相手もいなかったさよは、とにかく友達が欲しかったのだ

普通の幽霊が願うような成仏したいとか、会いたい人が居るとかはないらしい


「いや、いいよ。 しかし本当にそんな願いでいいのか?」

「はい! ずっと友達が欲しかったんです!!」

あまりに欲がないさよの願いに横島は戸惑ってしまいもう一度確認するが、さよは元気いっぱいに返事をする

正直今の横島ならば生き返る以外は、大抵の願いが叶えてやれるのだ

しかしさよの一番の願いがごく普通の友達になって欲しいとは、流石に横島も想像出来なかった

かつて三百年幽霊だったおキヌも変わっていたが、さよはある意味おキヌ以上に変わってるのかもしれない


「それじゃ帰るか。 さよちゃんは普段は学校に居るんか?」

友達になるという願いには、ある意味横島は何もすることはない

夜も遅くなって来た事から横島はさよを学校に送って帰ろうと考えていたが、さよの答えはまたもや横島の想像を超えるものだった


「夜は近所のコンビニとかファミレスに居るんです。 夜の学校は怖くて……」

真顔で夜の学校が怖いと告げるさよに、横島は世界の違い改めて感じさせられてしまう

前の世界ならいざ知らず、この世界の悪霊の発生率は極端に低いのだ

まさか幽霊が夜の学校を怖いと言うとは思いもしなかった


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