二年目の春・9

「あれ、タマちゃんは?」

「ごめんね。 今休憩中なのよ。」

一方横島やタマモの居ない仮設店舗では、いつも元気で屈託のない笑顔を見せてくれるタマモが居ない事で、残念がる声が聞かれていた。

タマモの仕事は行列の整理や案内に、体調が悪い人に椅子を運ぶ事など雑用だが、確実にタマモの頑張りがお客さんの増加に結び付いている結果だろう。

本人のヤル気次第で評価されるという見本でもあり、少女達もタマモに触発されたように頑張っている。


「ひつまぶし、海鮮と牛と中華入ります!」

「了解や。」

厨房の方も相変わらず忙しいままであったが、行列は途切れないんだと開き直るようになると、さしたる問題もなく調理出来ていた。

こ提供する時間や行列に並ぶ時間については、仕方ないと割り切り、良いものを作ろうと切り替えた事もプラスに働いている。


「ふふふ。」

「どうしたの? 木乃香。」

「なんでもあらへんよ。 ちょっと昔のこと、思い出してしもうただけや。」

そんな厨房において、木乃香は突然クスクスと笑い出すと周囲は驚く。

木乃香は周りに思い出し笑いをしただけだと言いつつ、再び込み上げて来そうな笑いを堪えていた。

去年のいつだったか、地元のケーブルテレビで再放送していた数年前の麻帆良祭の映像を見て、騒いでいたのを思い出したのだ。

幼い頃には祭りが楽しみなだったのは、木乃香とて同じ。

母と共に山奥の屋敷から街に降りて、京都のお祭りに行くのが何より楽しみだったのだ。

あれから年月は過ぎて、いつの間にか自分が幼いタマモと一緒に祭りに行くようになったのだと考えると、少し感慨深いものがある。

いつか自分も母となり、子供と一緒にお祭りに行くのかなと想像するも、それはまだ想像すら出来なかった。


「ただいまー!」

「タマちゃんも、横島さん達もお帰りや!」

「変わったことなかったか?」

「大丈夫や。 日替わりのプリンが、売れ切れてしもうたくらいや。」

そうなった時に自分の隣には、誰が居るんだろうと考え始めた瞬間、タマモの元気な声が厨房に響く。

横島や夕映達も居て、お土産にとクレープも大量に買ってきていた。


「ねえ! 食べていいの!」

「もちろんいいぞ。」

「やったー!」

お昼から働き詰めでそろそろ小腹が空いた少女達は、仕事をしながらもクレープにかぶり付くと、タマモや横島は仕事に参加して厨房や店内外は再び賑やかになる。

もし、自分が母となるならば……。

好きな人の子を産み育てたい。

木乃香は仕事を始めた横島を見ながら、そう願っていた。


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