二年目の春・9

少女達が着替えに向かうと、横島は近くのベンチに座り待つことになる。

横島自身もハニワ兵に勧められたが、横島が着ると似合わなくてコントのようになるのが目に見えてるので遠慮していた。

周りにはハニワ兵達の賑やかな声が響き、ベルサイユ宮殿の豪華さに圧倒されてる姿が見える。

そんな微笑ましい光景を眺めながら、横島はふと過去を思い出してしまう。



「アシュタロスの遺産って言うから、何かと思えば」

それは横島が高校三年に進学した頃。

アシュタロスがルシオラの記憶に封じていた自身の遺産の存在を、ルシオラの魂の欠片を受け継ぎ、彼女の力や記憶が覚醒し始めていた横島が思い出したのだ。

記憶の封印はアシュタロスの死により解ける仕組みであった。

横島は記憶の存在を令子に話して美神事務所のメンバーと、ベスパとパピリオに小竜姫ヒャクメとワルキューレとジークなどと共にフル装備で乗り込んでいる。

最悪上級魔族レベルの敵との戦いを想定した故の重武装とメンバーであったが、横島達が最初に降り立ったのは見知らぬ砂浜だった。

押しては引いてと繰り返す波の音に、緊張感を高めていた一行は驚かされる。


「どういうことです? ここは一体。」

「ここが遺産の中みたいっす。」

まだ完全にコントロール出来ないルシオラの記憶を断片的に思い出す横島は、アシュタロスの遺産に行くために必要だったアシュタロスの全権委任のカードと、ルシオラとベスパとパピリオの三人の力による空間転移をしなくてはならないという、やり方だけを思い出していたのだ。


「やっぱり財宝はないの?」

「さあ、それは俺にも。ルシオラの記憶にあるのは、ここがアシュタロスが創造した世界だって、アシュタロスが語ってることっすから」

遺産の中に来て再び断片的に思い出す横島は、遺産がアシュタロスの創造した世界だとこの時思い出していた。


「世界の創造に成功していたのか。」

「アシュ様。」

令子は彼女好みの遺産がないことにがっかりしていたが、ワルキューレやベスパはアシュタロスがすでに世界の創造に成功していた事実に衝撃を受ける。

知的生命体も神魔も妖怪も居ない世界は、本当に平和で理想の楽園のように一同に見えていた。


「ここ権利どうなるの?」

「どうと言われましても。 このような事態は想定してませんでしたので。」

「公表は出来ないのね。 亜空間にアシュタロスの創造した世界があったなんて。 ベスパさん達で管理してもらうのが一番なのね。」

敵や遺産の守護者らしい存在すらない現状に、令子はこの遺産が誰のものになるか小竜姫に確認するが、分からないとしか言いようがなかった。

アシュタロスの反乱の折に人界駐留の神族が数多く無くなっており、現状で神魔は一触即発の危機を迎えている。

そこにアシュタロスが創造した世界があるなどと知られたら、どんな騒ぎになるか分からない。

令子と小竜姫やワルキューレ達は話し合い、この件は神魔の上層部にも秘密にする事に決める。


「私達に管理っていわれてもね。」

「どうすればいいでちゅか?」

「ルシオラの記憶によると土偶羅にも封印した記憶と役目があるらしい。」

「なら土偶羅を呼ぶしかないわね。」

ただベスパとパピリオは世界の管理など出来ないし、そもそも遺産の手懸かり自体がルシオラの記憶にしかなかった。

結局アシュタロスの遺産は横島がルシオラの代わりを勤めることになり、後に呼ばれた土偶羅により遺産の権限はルシオラ・ベスパ・パピリオの三名にあることが知らされ、異空間アジトの歴史は始まることになる。


「ぽー?」

「おっ、サンキュー。」

過去に想いを馳せていた横島を現実に呼び戻したのは、横島宅に住む二体のハニワ兵達だった。

気を利かせて飲み物を貰って来たらしく横島に手渡す。

楽しげな二体のハニワ兵を眺めつつ、横島はあれから随分時が過ぎたのだと改めて実感していた。


2/100ページ
スキ