二年目の春・8

食後になると少女達は久々に魔法の練習をしていた。

麻帆良祭関連の準備などで最近練習をしてなかっただけに、久々の練習になる。


「出来ない! 出来ないよ!?」

ただし少女達の中で未だに初歩の魔法が全く使えないのは、後から魔法を知ったまき絵と亜子だった。

他の少女達と同じで魔法にあまり熱心ではないし、練習時間も足りないので当然と言えば当然だが。

実際他の少女達も初歩の治癒魔法を練習しているが、全く成果は出てない。

タマモだけは楽しそうに練習をしてるが、タマモの場合はみんなと一緒だから楽しいのであって魔法の練習が楽しい訳ではない。


「本当よね。 全然出来そうにないわ。」

「ぶっちゃけ覚えても、使い道ないのよね。」

夕映などは魔法自体に興味を抱いているが、明日菜や美砂達なんかはちょっとした特技でも覚えようとする感覚に近く、正直なところ使えたらいいなという程度で練習してるだけになる。

その分だけ真剣味もないしやる気も薄いので、上達が早いはずはなかった。


「別に使えなくても困らないものね。 私の友人も魔法を捨てて普通に暮らしてる人が何人か居るわよ。 麻帆良に残るなら使い道なくはないけど、麻帆良を出るとね。」

そんな雑談しながらの練習に刀子は少し苦笑いしながら見守っていたが、ふと実際の魔法関係者の話を少女達にしていた。

刀子の友人にも居たが、学生時代は部活やちょっとしたボランティア感覚で魔法使いとして働いても、社会人となる時に魔法から離れる人はそれなりに多い。

理由は様々だが、麻帆良を離れると魔法を使う必要がなくなることや、万が一魔法バレした時のサポートがすぐには受けれないことがある。


「普通にやれば一般的な一人前の魔法使いになるまで、五年から十年。 しかも才能が無ければそこで止まるわ。 それにいくら頑張っても魔法だけで食べていくのは難しいもの。 私みたいに代々家系で魔法に関わってるとかないと、なかなか続かないわ。」

少女達は刀子のリアルな魔法関係者の話に、静かになって少ししんみりとした空気で聞いていた。

刀子も普通の魔法関係者の学生にはこんなことは話さないが、実際問題魔法に熱中して魔法で生きていけるなんて極一部しかいない。


「高畑先生みたいに、世の中の為に戦うっていうなら必要でしょうけどね。」

「刀子さんは?」

「私は悪いけど、そんな気はないわ。 自分の事で精一杯だもの。」

夕映やのどかに雪広姉妹や千鶴なんかは知ってる話だが、改めて刀子から聞くと考えさせられるものがあった。


「ねえねえ、マスターは?」

「俺か? 俺は元々この世界で育った訳じゃないから、一概に比べられんぞ。 ただまあバイト感覚で始めただけだから、深く考えたことなかったけど。」

「へぇ。 マスターらしいわね。」

「別に強くなりたい訳じゃなかったし、特殊な力が欲しいって修行とか訓練した訳じゃないしなぁ。そりゃ一時期修行はしたけど、どっちかって言えば強くなったから修行が必要になっただけだし。」

そんな少ししんみりとした空気の中、まき絵が横島に話を振ると横島は少し悩みながらも意外に普通に答えていた。

強くなりたいと思ったことはあまりない。力が欲しいと思った事は何度かあるが、ならばと地道に修行とかしたかと言われるとしてこなかった。


「俺は守られてる側だったからな。 周りには守ってくれる人達が居たんだ。 真剣味が足らんかったんだろうな。 そのせいで。」

失って初めて人は気付くもので、横島もまたそれは同じだ。

いかに力を得ても結局横島は守られてる側だった。学生時代には美神令子に守られ、卒業してからは移住した妙神山の面々にも守られていた。

そういう意味では本当に自ら守る側に回ったのは、この世界に来てからかもしれない。

綺麗な星空を見ながら横島と女性陣は魔法という神秘の力について、少し考えさせられる一夜だった。

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