二年目の春・8

「そう言えば刀子。 貴女、中山先生の食事の誘い断ったんだって?」

「何で知ってるのよ。」

「そりゃ、噂になってるからよ。」

同じ頃、大学部近辺にて生徒指導の為にパトロールしていた刀子だが、一緒に居たシャークティから突然妙な話を振られて困惑していた。

少女達とは違い大人故に、横島と噂になっても問題はない彼女だが、刀子自身も美人なのでモテる方になる。

まして横島と知り合ってからは、物腰が柔らかくなったので密かに狙っている同僚は何人か居た。

今回噂になってるのは、同じく三十路の同僚だった。


「趣味じゃないわ。」

「どうして? 食事くらい付き合ってあげたらいいじゃない。」

「その気がないのに、食事行ってどうするのよ。」

相手の男性は真面目で誠実な人柄で、生徒達の評判もいい先生だ。

大分前から積極的に話し掛けて来ていたりしたが、刀子にその気がないのでかわしていた相手になる。

それが一週間ほど前だったか、突然食事に誘われていた。


「あのマスターとズルズル関係持っても駄目になるわよ。」

「シャークティ。 貴女まで誤解しないでくれる? 私と横島君は男女の仲じゃないわ。」

無論刀子は断ったのだが、それを目撃した人物から噂が流れているらしい。


「じゃあ、問題ないじゃないの。」

「だから趣味じゃないのよ。」

カトリック信者ということが影響してか、お堅い貞操観念と結婚観があるシャークティは、刀子を心配する余り横島との関係に警鐘を鳴らしてくれる友人である。

そこまではいいが、そんなシャークティですら横島と刀子が男女の仲だと誤解してることに刀子は深いため息をつく。

まあ三十路の女と二十歳そこそこの男が、噂となり一年近く毎日のように会っていれば、ただの友人だとは思わないのが普通と言えば普通だが。

シャークティは少女達の反応から、横島は少女達には手を出してないだろうと見ていて、そこは信頼のおけると評価しているが、刀子とは密かに男女の仲だと考えていてはっきりしないのは評価してない。


「そろそろ結婚も真剣に考えないと。」

「結婚はもういいかなって思う気もあるわ。 結婚の為に妥協したくないし。」

刀子が横島に惚れてるのはシャークティも十分承知しているが、年齢的にも結婚を前提に考えるシャークティと、恋愛や交際の結果として結婚を求める刀子では価値観が違う。

ぶっちゃけ年齢の問題は老化防止魔法薬であまり気にしなくてもいいし、妥協して結婚などしたくはない。

もし仮に横島以上に一緒に居たいと思える人が居たら、考えるかもしれないが。


「シャークティ。 貴女もよく考えた方がいいわよ。 他人と一緒に住むのって大変だもの。」

シャークティ自身、現在は恋人が居ない。

美人で性格もいいが、固い貞操観念とカトリックの信者であることと、魔法という秘密が重なる彼女のお眼鏡にかなう男はなかなか居ない。

刀子は他人の心配より、自分の心配をした方がいいのではと密かに思う。

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