二年目の春・8

先に動いたのはナンパ野郎だった。

タマモを抱き抱えた明日菜とまき絵に手を伸ばそうと、近寄り始める。

高音はそんんな三人を守るべき自ら前に出るが……。


「痛っ!?」

「なっ!」

「バナナの皮?」

その瞬間、ナンパ野郎達は一斉に先程までなかったバナナの皮に足を滑らせて、思いっきり転んでしまう。

その余りに情けない姿に高音や明日菜達ばかりか、周りで遠巻きに見ている者達もポカーンとしている。


「クッ! 早くそいつら捕まえろ!」

そんな一昔前のギャグのような物に引っ掛かった事が恥ずかしいのか、リーダー格の男は尻餅を付きながら激昂して他の男に檄を飛ばす。


「あれっ?」

「てめえら! 早くしろ!」

「体が……動かねえ。」

しかし無様に転んだナンパ野郎達は、無様な姿勢のまま動くことはない。というか動けないらしい。

動くのは口だけのようで仲間割れをするように騒ぐ姿を、高音や周りで遠巻きに見ている者達は不思議そうに眺めている。


「随分と業を重ねたな」

「なんだてめえ!」

「本当に嫌がったら引くのがナンパのマナーだろうが。お前達。重ねた業の分だけ苦しむぞ。」

ただ明日菜とまき絵と千鶴だけは、なんとなく何が起きたのか気付いていた。

五人同時にバナナの皮で滑り動けなくなるなど、普通に考えるとあり得ない。

だがそんなあり得ないことをやりそうな人物を、少女達はよく知っている。


「てめえ! ぶっ殺す!」

「もうすぐ警察が来るからな。 警察相手に言えよ。」

少女達の視線を感じたのか、横島は高音と明日菜達の元に行くとナンパ野郎達を見下ろして呆れた表情をしていた。

それは一見するとバナナの皮で滑って怪我をしたナンパ野郎達を呆れてるように見えるが、横島はナンパ野郎達が業を重ねたと呟くと不吉な予言めいたことを口にする。

結局ナンパ野郎達は誰かが呼んだ警察が来ると、何故か動かなかった身体が動くようになり、職質を受けて車を調べられると薬物が発見されて全員逮捕。

最初に無理矢理拉致されそうになった女子高生達も、事情を話すために警察に同行して行った。


「貴方。何をしたんですの?」

ナンパ野郎達の車も警察がレッカーで運んでいくと遠巻きに見ていた人達も散っていき、タマモは落ちていたバナナの皮を拾うと近くのゴミ箱に捨てにいく。

そのゴミ箱には他にもまだバナナの皮が捨てられていて、恐らく同じ頃に捨てた物だろう。

高音はそれに気付くと、流石にこの場で誰が動いたか気付いたらしい。


「うん? なんにもしてないぞ。」

「あそこにバナナの皮なんて、ありませんしたわ。」

「なかなかよく見てるな。ちょっと物質移動と金縛りをな」

「物質移動……。」

「流石に女の子が体張ってるのに見てるだけってのもな。邪魔して悪かったな。」

「いえ。ありがとうございました。」

横島は一瞬とぼけたが、高音が意外に周囲の状況が見えていたことで種明かしをする。

その内容に驚く高音に、横島は邪魔をしたことを謝ると明日菜達と一緒にその場を離れて行った。


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