二年目の春・8

「しゅうかくできる?」

「おお、収穫出来るな。」

「やった!」

まだ朝のひんやりとした空気の翌朝、庭の手入れと猫達の世話をしていた横島とタマモとさよは、食べ頃に実ったトマトの前に来ていた。

大きく育ったトマトの実は食べ頃に熟していて、ここ数日は朝晩と成長を見守り収穫を心待ちにしていたタマモが慎重に今年初めてのトマトの収穫を行う。


「美味しそうですね。」

「うん。 おいしそう!」

タマモでなくとも分かるような新鮮なトマトの匂いに、さよとタマモは嬉しそうに微笑んだ。

昨年は冬の大根が今一つ上手く育たなかっただけに、タマモは心配していたらしい。


「朝ごはんで食べるか。 このトマトだと塩振るだけで美味いぞ。」

数日前からはきゅうりも収穫が出来ていて、この日も何本か収穫した横島達は朝食のおかずにするのを楽しみにしつつ、前日に続き限定販売の菓子を作ることにした。

この日はマドレーヌにするらしく、さよとタマモも簡単な作業を手伝っていて、焼き上がり冷ましたマドレーヌを包装する作業なんかは二人が協力して行っていく。

食べてくれる人が喜んでくれたらいいなと願いを込めるタマモは、一つ一つ丁寧に包装している。


「きのうのくっきーも、みんなおいしいっていってたんだよ!」

みんなと一緒にお店をやり美味しいと喜ばれる。

タマモはそれが何より楽しくて仕方ないようであった。


「おはよう。 手伝いに来たえ。」

「このかちゃん! あすなちゃん! ゆえちゃん! のどかちゃんおはよう!」

そのまま三人で作業をしてると、木乃香達が手伝いに来て厨房は一気に賑やかになる。

タマモは今年初物のトマトをみんなに見せていて、一緒に食べようと満面の笑みを浮かべた。

そんな美味しい物も楽しいことも、みんなで分かち合うことこそ、タマモが木乃香達から教わったことでもある。


「大丈夫か? 疲れとれたか?」

「大丈夫や。 タマちゃんには負けへんで。」

「わたしもまけないよ!」

賑やかで笑い声の絶えない厨房で横島は少女達の疲労を少し気にしつつ、元気そうな少女達にホッと一息つく。

昨日はクルト・ゲーデルが逃走したとの件で話をしていたので、実は横島は少し寝つきが悪かったのだ。

大きな脅威になるとは横島もあまり考えてないが、全く不安がないと言えば嘘になる。

横島忠夫という男は臆病者なのだ。

高畑を知り赤き翼を感じる横島は、決してクルトを甘く見る気はない。


「横島さん。 どうしたんですか?」

「いや。 たまには世界でも敵に回してみようかなって。」

「ちょっと!? 何する気!?」

「横島さんが言うと、完全な冗談に聞こえないから笑えないですよ。」

「冗談だよ。 ちょっとそんな気分になっただけだ。」

ただ横島は少女達の笑顔を見ていると、今ならば世界を敵に回しても勝てると思えてくるから不思議だった。

そんな少し意味深な笑みを見せる横島の物騒な発言に、木乃香達は半ば冗談だと笑いながらも、まさかと思うのか止めていたが。

横島を動かすのは何時も身近な女性であり、クルトは自らの知らないところで人知れず敵に回してはならない男を敵に回していた。

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