二年目の春・8

「この期に及んで逃げるとはのう。」

魔法世界の騒動に近衛邸では、麻帆良に滞在中の穂乃香と高畑に加えて、横島と芦優太郎が集まり急遽対策を話し合うことになった。


「現在、奴は連合の勢力圏から脱出しようとしているな。」

現状でクルトの行方を掴んでいるのは以前から要注意人物として監視をしていた土偶羅のみであり、肝心のクルトはメガロメセンブリアを脱出して連合の勢力圏内を移動中らしい。


「このままだと逃げられそうね。」

かつての大戦中にはアーウェルンクスの罠で指名手配されて、戦後にはアリカを助けて指名手配された、赤き翼の生き残りであるクルトは、逃亡は慣れてると言っても過言ではない。

困ったことに頭はキレるし腕もたつ。

メガロメセンブリアの捜査当局を熟知してもいるので、警備や捜索網からうまく逃れつつ逃亡をしていた。


「土偶羅。そいつは例の強制認識魔法の効果を組み込んだ映像を持ってるんか?」

「ああ、コピーを持っているようだな。」

「困ったことになったの。」

クルトに関してはメガロメセンブリア当局や悠久の風の監視下にあったが、それを振り切り逃亡している。

横島としてはクルト個人の行方にあまり興味はないが、例の計画の強制認識魔法の効果を組み込んだ特殊映像だけは放置は出来ないと見ていた。


「その映像に関しては、インターネットやマホネットの通信にのる前に、末端の機器を使おうとした段階で、こちらから映像ごとコンピューターウィルスで破壊する予定だ。 問題ない。」

ただ土偶羅としてはすでにその手の対策を取っていて、それ自体にあまり驚異はなかった。


「ということは、クルトの行方と身柄をどうするかということか。」

とはいえ放置しておけば、ろくなことをしないだろうことは明らかで、近右衛門や穂乃香ばかりか高畑も頭を悩ませる。

直接高畑が捕らえに行くという選択肢は難しい。

メガロメセンブリア当局や悠久の風を出し抜いたクルトを高畑が捕らえれば、もしかしたら高畑は計画を知っていたのではとの疑念が生まれる可能性があった。

情報を悠久の風に多少流すくらいならば構わないが、あまり正確な情報を流せば妙な疑念を持たれても困るし、クルトを捕らえるにはかなりの腕利きの者も必要になる。


「可能性としては麻帆良に来る可能性もある。」

「来たら取っ捕まえればいいだろ。」

メガロメセンブリアも早く指名手配すればいいものを、体裁やら逃げられた失態を隠したいのか、情報公開せずに治安機関や情報当局関係者がクルトを探していた。

クルトの行方は不明だが、ネギ・スプリングフィールドや高畑の元には現れるかもしれないと考えられていて、悠久の風なんかはそちらに網を張っていたが。


「やれやれ。自分達で問題を解決してくれんかの。」

結局近右衛門も高畑も横島も迂闊に動けず、近右衛門はここまで情報を流して解決に導いたのに、最後の最後で逃がしたメガロメセンブリアに深いため息をこぼした。

放置もしたくないが巻き込まれるのは困る。

ある意味クルトを取り巻く環境はその一言に尽きるようだった。

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