二年目の春・8

一方この日、麻帆良には関西呪術協会の人達が到着していた。

始まったばかりの東西協力の一貫として、麻帆良祭での警備員として近右衛門が協力を要請して関西が受けた為である。

元々は告白の強制成就対策のための人員不足による要請だったが、横島とエヴァの協力により必要が無くなっていた。

ハニワ兵の応援も得られたので警備員が必ずしも不足している訳ではないが、東西協力を進める必要性もあり予定通り派遣してもらうことになった。

明日から五日の予定で警備に協力する関西一行だが、麻帆良祭本番は三日のうち一日は交代で休んでもらうことにしていて、麻帆良に親しんで欲しいという意味もある。


「そんなに大変なのか。」

「裏の警備だけじゃないですから。産業スパイにスリや置き引き。それと悪質なナンパに薬物を売ろうとする売人。いろいろ居ます」

この夜、刀子は説明の為に関西一行と食事をしながら例年の資料を見せて話をしていた。

麻帆良祭の厄介なところは、裏と表が複雑に絡み合うところである。

一目見ただけで裏のスパイや工作員だと分かる人間は、麻帆良でも一握りしか居ない。


「皆さんにはOBや有志による、ボランティア警備員として表向き働いてもらう予定です。流石に命に関わる危険などはないですが、隙を見せない為の抑止力として関東では期待してます。」

関西一行は表向きはボランティア警備員として期間中働き、主な仕事は外部からのお客さんの案内にトラブルの解決で、魔法関連の問題は怪しい人物の報告となる。

とにかく混雑する期間なので、余計なことを企まないように抑止力として魔法関係者の数が必要というのは事実だった。


「それにしても凄いな。 街一つで文化祭するんだから。 テレビでは見たことあるけど。」

「だな。 経済力だと関西と桁が違う。 関西の武士は食わねど高楊枝みたいな風潮変えないとダメなんじゃないか?」

「伝統は大事だけど、オレ達も誇りと伝統じゃ飯食えないからな。」

今回送られてきた人材は若く、東西の対立にあまり蟠りがない者達が中心だった。

伝統を守りつつ、影で妖魔や悪質な魔法使いから人々を守ると言えば聞こえはいい。

しかし実情はほぼボランティアで呪術協会に加わってる面々なので、東西の違いに受ける衝撃も大きいらしい。


「関東も魔法協会一本に絞れてる人は少ないわね。 大概は掛け持ちで報酬は出るけど、アルバイト程度かしら。 ただ学園とか支援企業で働いてる人も多いから、収入面では違うでしょうね。」

「ああ、雪広と那波か。 最近呪術協会の企業や個人と業務提携とかしてるって聞くけど。」

「協力出来る面は協力する。 それが西の長と東の会長の意向よ。」

「今までそれすらやれてないことって、問題だよな。」

「まあ、オレ達はさっさと協力した方がいいってことだな。」

関西呪術協会も年齢や立場により、考え方はまるで違う。

立場が低く若ければ若いほど伝統への認識も軽く、組織の体裁や都合などどうでも良かった。

中には極度に偏った思考を持ち、関東は関西に従うべきだと主張したりする者も当然居るが。

今回送られてきたメンバーは、同じ日本人同士の無益な対立に反対の者も多く、詠春は末端から東西協力が進んでくれたらと期待していた。


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