二年目の春・8

「ご注文をお伺いします」

「とりあえず飲み物以外を十個ずつちょうだい。」

「あっ、私も!」

「申し訳ありません。 わんこひつまぶしの方は、お持ち帰りはやっておりません。」

「ああ、いいのよ。 私達は食べていくから。」

「食べてって、わんこひつまぶしだけでもお一人様六十個になりますが……」

さて仮設店舗の方は相変わらず混雑していたが、大学生くらいの黒髪の美女と茶髪のギャルの二人組が来店すると、当たり前のように大量に注文する。

揚げパンはともかく、わんこひつまぶしは持ち帰りに向かないので、持ち帰りはやってなくレジ担当の美砂は申し訳無さげにその事実を伝えるが、二人は平然と食べていくと答えた。


「大丈夫。 いくら?」

「あっ、はい。」

わんこひつまぶしとはいっても小振りなお茶碗に半分くらいはある量のご飯があり、一体何を考えてるんだと美砂は首を傾げるも、大丈夫だと言われると売らない訳にはいかない。

飲み物を合わせて一人八千円以上を支払ったお客さんの注文を美砂は慌てて厨房に伝える。


「オーダー入りました。わんこひつまぶし各二十個。揚げパンも二十個。揚げパンの味はあんとクリームが半々で、トッピングも一通りお願い」

「団体さんでも来たのか?」

「ううん。 美女が二人。」

「美女!?」

「横島さん」「マスター」

突然の注文に厨房は団体客でも来たのかと、少し慌ただしくなるが、頼んだのが若い女性だと知ると横島は条件反射的に見に行こうとするも一部の少女達の冷たい声に止まる。

横島としては一体何者だという好奇心と、長年の習慣で反応しただけだが少女達からすると、もう女は増やさなくていいと割と本気で止めていた。

もちろん横島本人が女を増やそうとしてる訳でないのはみんな知ってるが、それ故にタチが悪いと止めた少女達はしみじみと思う。


「うわぁ。 そんなにたべれるの?」

「食べれるわよ。 私達食べるのが好きなの。」

「うん。 美味しいじゃない。 欲を言えば丼で食べたかったなぁ。」

店内では美女二人が大量のわんこひつまぶしをテーブルに並べていて、その姿が目立っている。

タマモも一体何をしてるんだと不思議そうに眺めて二人に声をかけるが、二人はタマモに優しく答えつつもわんこひつまぶしを本当のわんこそばのように軽々と食べていく。


「これの器、思ったより美味しいじゃん!」

「そうね。 問題は食べてる姿が、ちょっと美しくないところかしら。」

細い体の何処に入るんだと不思議そうなタマモや周囲に見守られながら、二人は味の批評をしつつ食べていた。

味に関しては高評価ながら、量の問題や器の食べ方については少しマイナスな意見を言いつつ二人の食事は続いた。

結局二人は食べられる器まで完食して、立体映像も楽しみ帰って行く。

タマモは世の中には凄い人が居るなと、ビックリしながら見送っていた。
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