二年目の春・8

さて、この日も店は開店前から行列が出来ていて途切れることなく続いている。

横島達の噂をしている雪広グループの方も、そちらから流れてくるお客さんで賑わっており、この日は麻帆良祭直前ということで学園内で有名なアマチュアバンドの演奏なんかやっていたが。


「現在四十分待ちでーす。椅子が必要な方はお気軽にどうぞ」

「はい! いすだよ」

「ありがとう。でも私は大丈夫よ。」

賑やかでお祭りらしい雰囲気の中、桜子とタマモは行列の整理をしていたが、タマモは一組の夫婦の女性に、この日から大量に用意したパイプ椅子を運んでいく。

椅子を大量に用意したので申告制で自由に貸し出すことにしたが、タマモは相変わらずお年寄りや子供などには自ら椅子を運んでいたのだ。


「だめだよ。 あかちゃん、つかれちゃう。」

「えっ!? なんで……」

「まさか、子供が出来たのか!?」

「うん。 今夜話そうと思ったの。」

ただ今回タマモが椅子を運んだのは、三十くらいの健康的な女性だ。

何故彼女にと桜子も周りも椅子を運んでもらった本人も首を傾げるが、タマモは当たり前のように女性が妊娠している事を理由として告げる。

すると夫婦はまだ夫への告知もしてなかったらしく、その場で赤ちゃんが出来た告知をすることになり、周りからは祝福の声が誰からともなく出始めた。


「まだ安定期じゃないから、言うべきか迷ってて。」

「そうか! 元気な子が生まれるといいな。」

「だいじょうぶだよ! あかちゃんげんきだもん!」

「ふふふ。 ありがとうね。」

「うん!」

夫婦はいつの間にか二人の世界を作り始めるが、タマモはそこに臆することなく加わると夫婦の元に新しい命が元気に生まれてくることを確約する。

タマモはそのまま女性に椅子を渡すと、他に椅子が必要なお客さんが居ないかと行列を並ぶ人達を見に行ってしまう。


「あんな子供が欲しいわね。 元気で明るくて優しい。」

「そうだな。 あの子なんて名前なんだろ?」

「タマモちゃんですよ。 あの子の名前は。」

「タマモちゃんか。 生まれてくる子が女の子だったら、あの子の名前から付けたいな。」

みんなに元気な笑顔を振り撒いて、体調の悪い人には気遣いを見せるタマモに夫婦は、自分達の子供も元気に生まれてきてタマモのように育って欲しいと願う。

ちなみに余談だが数ヵ月後には夫婦の元に元気な女の子が生まれ、夫婦は娘にたまきと名付けて、タマモと一家は数年後に麻帆良学園初等部で再会することになる。


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