二年目の春・8

プレオープン三日目の今日は、麻帆良祭まで残り三日となる日でもある。

3ーAの少女達はそれぞれに部活やサークルの出し物やイベントの準備に行っていて、半分くらいの人数でこの日は営業することになった。


「すげえ。 コブラだ。 コブラ!」

「誰の車だろ?」

「ああ、それな。 麻帆良カフェのマスターの車だぞ。」

「まじかよ!」

「有名だよ。 コブラで店の仕入れとかしてるし。」

ただこの日意外に目立っていたのは、大量のクッキーを運ぶために乗ってきた横島の車だった。

割と何でもありな麻帆良とはいえ、半世紀近い前のコブラに日常で乗ってるのは横島くらいである。

店の邪魔にならないようにと、雪広グループの社員や関係者が駐車してる目立たない場所に置いたが、それでも目立っていた。


「ねえ、クッキー。 いつ売るの?」

「いつでも構わんぞ。」

「もう売っちゃおっか!」

一方タマモ命名の森の神様のクッキーは、開店と同時に発売された。

タマモも手伝いラッピングして、森の神様のクッキーという名前も手書きでシールに書いて貼っている。

一袋百円で程よい量の物が三百個限定販売になる。


「ラードを使ったクッキーとは。 珍しいネ。」

「オレが昔世話になった人のレシピを、ちょっと思い出してな。」

「味も美味しいし、麻帆良だと珍しいから売れるヨ。」

朝から来ていた少女達にも味見程度にお裾分けして、反応を伺うが少し驚きはするものの悪くない。

ラードのせいか、ちょっと中華風にも感じるので超鈴音と五月が一番驚いていたが。


「また昔の女ね。」

「えー!? そうなの!?」

「違うっつうの。 そんな関係の人じゃねえ!」

「あっ、女なのは本当なんだ。」

ちなみに横島が珍しい物を作り、昔世話になった人と言った瞬間、美砂は昔の女だと直感を働かせてまき絵が大袈裟に驚き騒ぎ出す。

横島は即座に否定するも、相手が女の人なんだと露見すると周りは疑いの目を向ける。

ただ横島も一般人の居る場所で小竜姫のことを話すわけにもいかずに、本当に世話になった人なんだと言うしかないが。

実際言わないで良かったのかもしれない。

十年近く一緒に住み、食事や洗濯まで甲斐甲斐しくしてくれてた美人の神様だと聞くと、疑いは深まるだけなのだから。

いかに特殊な事情があるとはいえ、それだけでない関係なのは少女達でなくとも感じるだろう。


「可哀想に。」

「その人、今でもマスターのこと待ってるかも。」

「人聞きの悪いこと言うな! 違うって言ってるだろ!」

その後、横島が一通りからかわれつつ開店準備を済ませた店は、三日目のプレオープンを迎えることになる。


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