二年目の春・8

一方この日の刀子は、コンビニの弁当を購入して帰宅していた。

ここ数日は横島が店を休んでる影響で、一人での夕食になっているが、以前では当たり前のそんな夕食が酷く寂しく感じられてしまう。

特に見たいわけでもないが無音よりはマシかとテレビを付けて、内容など頭に入らないような番組をあえて見ながら、レンジで温めた弁当と缶ビールというささやかな夕食だ。

この時期は一年で一番忙しい季節なだけに、この時間に帰れただけでも早い方だ。

生徒を型にはめて縛り付ける従来の日本の学校と違い、生徒を自由にすることで成長させる麻帆良学園では、教師陣の負担は決して軽くはない。

つい先日は久々に食べたコンビニ弁当が意外に美味しいと感じたが、早くも飽きたというか空腹を満たすための食事でしかなくなりつつある。


「依存してるつもりはないんだけど。」

刀子自身は横島にも少女達にも、依存してるつもりは今のところない。

ただ、毎日のように当たり前に食べていた夕食が無い影響は意外に大きく、ストレスになっている。

学校と変わらぬテンションで騒ぐ少女や、一日の出来事を話してくれる幼女の居ない寂しさを改めて感じていた。

客観的に見ると僅か一週間程度のことなのだが。


「贅沢に慣れると大変だなんて聞くけど。」

自分の環境が恵まれていたことを刀子は自覚していたつもりだったが、ちょっと離れただけでそれを感じる事に、自分は少し弱くなったのかもしれないと感じてしまう。

彼女は本当に不器用な女である。



同じ頃、高畑は見回りの為にまだ学校に残っていた。


「二十年前と何も変わらないな。」

ちょっとした休憩の時に高畑は腕時計型通信機で、魔法世界のクルト・ゲーデルの状況を見ていたが、一人の人間を吊し上げにして問題の本質を誤魔化そうとするメガロメセンブリアに心底不快そうな表情をした。

クルトの良し悪しは別にして、世界のことをあれほど想い努力していた男に対する仕打ちとしては、あまりに悲しいと高畑は思ってしまう。

無論魔法世界の全てが現実から目を逸らしてる訳ではないが、クルトの現状が二十年前のアリカ女王の一件と重なるように高畑には見えていた。


「端から見ればどっちもどっちに見えるんだろうね。」

実際クルトが越えてはいけない一線を超えたのを高畑も理解しているが、だからといって魔法世界の為に動く気にならないのは明日菜や麻帆良のことを抜きにしても、今回のような魔法世界の人々に失望したという面もない訳ではない。


「高畑先生。 そろそろ行きましょうか。」

「えう。 そうですね。」

同じく夜遅くまで働く同僚の教師に声をかけられた高畑は、魔法世界の情報を閉じて目の前の現実の為に生きることにする。

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