二年目の春・8

二時間ほど休憩していた横島達は仮設店舗に戻り、他の少女と交代で仕事を再開する。


「ねえ? ズルくない?」

「ズルい!」

ただ今の横島がタマモと木乃香だけを連れて遊びに行けば、周りが騒がないはずがなかった。

美砂・桜子・まき絵の三名は一斉に不満を口にしてしまい、横島に自分達も当然遊びに連れて行ってくれるよねと迫る。


「分かったって。 時間が合えばな。」

ただ問題は迫っている三名だけではない。

他にも少し羨ましそうな視線を向ける少女は当然居るので、横島は彼女達のご機嫌を取りつつなだめるが、はっきり言えば安易に約束出来るほど暇じゃない。


「ふふふ。些細な不満がやがて憎しみに変わり、女達は血みどろの愛憎劇を繰り広げ……」

「ないわよ!」

ちなみに横島と美砂達のそんなイチャつくような姿に、千雨などはまたかとため息を漏らしていて、ハルナは修羅場になるのを期待するような台詞を口にするが美砂に即否定される。

まあ、いつもの光景なので誰も本気になどしないが。


「おしゃべりしてもいいけど、作業に集中しろよ。怪我するからな」

一方当事者であるはずの横島は、騒ぐ少女達が盛り付けを間違ったり怪我をしたりしないか、気を付けながら苦笑いを浮かべていた。

本当に慣れたというのが横島にもあり、形として否定したりはするが、ムキになって反論するほどではない。

そしてもう一人の当事者である木乃香は、まるで無関係のように全く気にする素振りすらなく笑顔で調理を続けている。

意外と言えば失礼かもしれないが、木乃香は要領がいい。


「ひつまぶし入ります!」

「はーい!」

ちなみに横島は一応注意したが、少女達はおしゃべりはしても作業の手も止めてなかった。

横島や木乃香は調理担当なので違うが、他の少女は盛り付けや下拵えに雑用とそこまで危ない作業ではなく、簡単な作業をしている。

その結果、おしゃべりしても手を動かすくらいの余裕はあるらしい。

去年の麻帆良祭や横島の店の手伝いに、麻帆良亭の営業日の手伝いなど、横島に近い少女はそれなりに経験を積んでいることも余裕の原因だろうが。


「こうなったら、チョコレートひつまぶしを売るしかないわね!」

「……ハルナ。それだけは止めてください。」

なお横島も動揺せず少女達も本気にしなかった事に不満げなハルナは、新たな新メニューを口にするが、そのあんまりなメニューに少女達は想像したのか顔を歪めた。

相手にすれば調子に乗るが、相手にしないで流せば更なる暴走ネタを探すハルナにブレーキ役の夕映は、お願いだからとハルナを宥めに回ることになる。

ただし横島だけはハルナの気持ちを、多少なりとも理解するのか笑っていたが。

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