二年目の春・8

「ぼちぼちだな。」

結局プレオープン初日は午後5時終了のはずが、5時までに行列に並んだ人を終了としたので最後のお客さんが帰ったのは六時半を過ぎた頃だった。

売り上げ自体は数十万になり少女達は喜んだが、人数が多いので一人一人の時給に換算するとあまり多くはない。

まあ仕入れ値が雪広グループの好意で半値なので十分利益は出てるし、中等部の出し物としては破格の売り上げではあるのだが。


「終わった!」

「帰ろっか。」

店内の清掃に椅子やテーブルの汚れや破損を確認して、一部の椅子が汚れていたので、カバーを外して洗うことにするなど後始末もそれなりにある。

食材は多少余り明日使える物以外は廃棄となるので、何人かの少女達が持って帰り夕食にするらしい。


「へぇ。 夜のライトアップもするんだ。」

店内の清掃も終わり少女達は女子寮に帰っていくが、仮設店舗の外部の立体映像とライトアップは日付が変わる深夜零時まで行われるようで、閉店後も見物のお客さんがちらほらと見られた。

夜の立体映像は昼間とは違う幻想的なメルヘンさがあり、気持ちカップルが多いようにも見える。


「カップル多いなぁ。」

「麻帆良祭って急造カップル増えるのよね。」

仮設店舗は夜間は人が入らぬように戸締まりして最後の横島と少女達も帰ることになるが、よく見るとあちこちにカップルが居て横島は少し面白くなさそうにしていた。

去年もそうだったし毎年のことだが、麻帆良の学生が一番カップルが増えるのはこの時期になる。

かつてのように女性に虫けらの如く扱われたりモテない訳ではないが、他人の幸せそうなカップルを見てると劣等感が疼くのが本音なのだろう。

ただまあ客観的に見ると横島は急造カップルより酷く、女の子を独占するタチの悪い男だと本当にモテない男子には少し恨まれてるが。

事実横島は桜子と美砂に両手を組むように挟まれながら歩いていて、物凄く目立っている。

まあ以前のように騒がなくなっただけ、横島も成長してるのだろうが。


「ウフフ。 今夜はサービスするわよ?」

「人聞きの悪い冗談は止めんか!」

「やだ、もう。 冗談だなんて。 いつものことでしょ。」

「お前らなぁ。本気にする奴結構居るだろうが。」

ちなみに横島が微妙に劣等感を感じてるのに気付いてるのか、気付いてないのか不明だが。

美砂はあからさまにいちゃつくような態度と発言で横島を悩ませ、周りで見てる通りすがりの学生達に見せつけていた。

麻帆良祭直前ということもあり、彼女もまたテンションが上がってるのだろう。

実際美砂も結構モテる方で、チアリーディング部として運動部の大会などに応援に行ったりもするので、よく告白されたりデートに誘われたりする。

ぶっちゃけ少し軽く見えるのもモテる理由だろうが、中身は軽くはないので誘いを全て断っている。そんな美砂が横島と親しく抱き付いたりしてるのを見れば、当然ながら男子達は勝手な想像をしてしまう。

楽しい麻帆良祭とはいえ独り身の男子には、横島達の姿は目の毒だった。

特に中高生の男子なんかは嫉妬をして横島に対するヘイトを貯めていくが、まあ今更なことだった。


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