二年目の春・8

「では怪我のないように頑張りましょう」

「はーい!!」

開店は十時から十分繰り上げてのスタートだった。

テレビや新聞のカメラに見守られながらのスタート故に、少女達はお澄まし顔をしていて、いつもの悪のりはあまり見られない。

タマモはそんないつもと違う少女達に、理由が理解できないのか少し不思議そうにしているが、それでもようやく開店するお店にわくわくが押さえきれないらしく、深く気にすることはなかった。


「オーダー入ります。わんこひつまぶし全種類と、揚げパンチョコソース掛けで!」

開店時には百人以上の行列が出来ていて、大半は学生だが一部には横島の店の常連の年配者が混じったりしている。

なお先頭の人達は二時間以上前から並んでいる、徹夜明けの大学生達だった。

この手のイベントの開店の一番乗りはマスコミから取材される事も多いので、半ばそれも狙っての一番乗りらしいが。

更に今年はレジも最新の物を導入している。

注文を受けた商品は厨房のパソコンと電光掲示板に表示される仕様になっていて、声かけと合わせて間違いがないようなシステムになっていた。

システムそのものは雪広グループの飲食レストランなどで使ってるものを、ほどそのまま持ち込んだだけだが。


「これ、楽ね。」

「揚げるだけだもんね。」

厨房の方はわんこひつまぶしは慣れるまで少し時間が掛かりそうだが、一方で揚げパンはフライヤーにて決まった秒数揚げて味付けして、ポップコーンなどを入れる紙コップに入れればいいだけになる。


「今年も凝ってるな。」

「ターゲット層を少し絞ってきたか?」

「やばい。これ美味いぞ。」

「わんこひつまぶしってより回転寿司みたいだな」

店内のフロアは当然ながら開店早々満員になり、少女達は行列を店内で食べていく客と持ち帰り客の二列に分けて対応している。

内装も一見すると、まるで木の中にあるメルヘンなお店なのだが。

立体映像で製作したナビゲーターの動物さんが『さあ、みんな出発だ!』と告げると、壁にはスクリーンが自動で降りてきて、普通の映像と立体映像に匂いや風などを起こす装置を発動させて、世界の名所や海中などを旅していく仕様になっていた。


「スゲー。」

「これだけで金取れるぞ。」

立体映像に普通の高画質の映像と匂いや風にスピーカーからの迫力ある音を組み合わせた物は、映画館の比ではないリアリティさがある。

楽しげに観光する擬人化した動物さん達の立体映像もあったりして、リアルにファンタジーを組み合わせたような光景は昨年の立体映像を越える物だった。


「天才超鈴音は健在だな。」

修学旅行の際に不正行為で騒ぎになって以降、公式には初めての活動となる超鈴音と葉加瀬は、その才が決して不正行為で得たものではないと世間に知らしめるには十分な出来になっていた。


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