麻帆良祭への道

その後食前酒を軽く飲みながら夕食を待っていた刀子だったが、流石に食事が出されるまで三十分ほどの時間がかかっていた

元々メニューにない物を頼んでるので刀子自身も不満はなかったが……


「時間かかってすんません。 来る前に電話でも貰えれば、すぐに食べれるようにしときますよ」

今日の料理は魔法料理ではなかったが、野菜と魚を蒸した物にサッパリとしたタレがかかっており食欲をそそる

他にもおかずが二品と味噌味がついており、ボリュームとしてもちょうどいいだろう


「いいのよ。 食事前の時間くらいゆっくりしたいもの」

横島としては待たせるのも悪いと感じて来る前に電話でも欲しかったようだが、刀子は逆に望んでいなかった

正直仕事は多いが、食事の前後に店でゆっくりする時間を減らしたいとは思わないようである


「麻帆良祭の準備進んでる? みんな元気有り余ってるから大変じゃない?」

「なんとか進んでますよ。 みんな確かに元気だけど、あのくらいの方が楽しいっすね」

刀子から少し離れたカウンターの端に座った横島はビールを片手に刀子と会話をするが、内容は本当に普通の世間話程度だった

まあ正直刀子としては、学校外まで仕事の話はしたくないのだろう

というか横島の日常に割と興味を持っており、横島の店に来る客の話などを聞きたいようだった


「売り上げ大丈夫なの? もしキツイなら麻帆良学園の食券扱うのもいいわよ。 ちょっと審査が厳しいけど学食の食券を扱えば、かなり生徒が増えるはずよ」

横島の自由気ままな店は刀子も気に入っていたが、若干儲かってるのかは不安なようだ

どうも横島が頼りなく見えるらしく、常連や親しい者が店の売り上げを心配する姿は割とよくある光景である

以前心配していた木乃香達が少し前にようやく納得したのだが、代わる代わる心配する人が出て来ていた

開店当初のような激安メニューは以前値上げしたのだが、それでも客に心配されるのだから最早横島の個性に問題があるのかもしれない


「今のところは大丈夫っすよ。 でも食券が扱えるのは知らなかったな。 麻帆良祭が終わったら考えてみようかな~」

麻帆良学園の食券が外部の店でも扱えると知らなかった横島は少し興味があるようで考えてみるが、とりあえず麻帆良祭が終わるまでは無理である

一方刀子はあまり表情にこそ出さないが、店の経営がそこそこ上手く行ってると感じて人知れずホッとしていた

突然夜逃げでもするのではないかと若干不安だったらしい


(あんまり商売が上手そうじゃないのよね。 気をつけないと無理しそうな気がするわ)

一つ一つ見れば優秀な横島だったが、総合的に見てると何故か不安になるのは木乃香達も刀子も同じようだ

突然夜逃げされるくらいならば、いっそのこと恥を捨てて頼って欲しいとも考えてしまう

仮に横島にそんな話をすれば恥も何もなく頼ると即答するのだろうが、教師でありバツイチの経験がある刀子ですら横島を若干美化しているのかもしれない

結局今日横島との距離を気をつけようと決めたばかりの刀子だったが、それはそれとして心配はしてしまうようだった


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