二年目の春・8

結局この日は夕方にマグロを堪能して、終電ギリギリまで作業を続けることになった。

マグロは刺身とかぶと焼きに加えて皮もあったので、皮をカリカリの塩焼きにした物と、湯引きしてぽん酢で和え物にしている。

部位にもよるが鮭の皮のように美味しく、独特の食感があって皮も十分な一品になる。

刺身は赤身の漬けも作っているし、何と言っても今年はオーブンで丸々焼いたかぶと焼きもあって豪華な夕食だった。


「なんかもう、一杯やりたくなるな」

「だめですよ」

ただ横島なんかは早くも酒が飲みたくなってきたらしく、つい酒が欲しいと口にしてしまうが、当然ながら仮設店舗に酒なんてあるはずがなかった。


「まぐろおいしいね!」

タマモや他の少女達も仮設店舗の一部完成したメルヘンっぽいテーブルで食べるが、料理の味はもちろんだが椅子やテーブルの使い心地も良かった。


「でもこれ溢したら洗わなきゃダメだから、予備作っておいて良かったね」

なおメルヘンの椅子に関しては、布製のカバーにクッションを入れた物を既存の椅子に被せただけなので、汚れたら洗わなくてはならない。

この辺りは小さい子などが溢すことも想定して、何組か予備のカバーを作っている。

木乃香達を中心にタマモと親しい少女が多いだけに、小さい子がはしゃいで溢したりすることを予め想定してるようだった。


「さて、食ったしやるか」

ただ横島も食後は後片付けを少女達に任せて、自身は未完成な外装の設置に取りかかる。

流石に暗くなって来たので、予め借りていた工事用のライトを使いながらの作業は、端から見ても素人には思えない光景だ。

タマモは危ないからと足場には入れてもらえないので、足場から少し離れた場所で自分が思い描いたお店が出来るのをワクワクとしながら見守っていた。


「タマモちゃん。寒くない? そろそろ、もう一枚着ないと」

「うん。ありがとう」

「麻帆良祭も近いから、無理しちゃだめですよ」

「うん!」

そんなタマモの様子に気づいたさよは、少し夜風が冷たくなって来たので、上着をタマモに着せてあげながら一緒に横島の作業を眺める。

一年前とはあまりに違う現状に、さよもまた希望とワクワクが抑えきれないようであるが、それでもふと思い出してしまう時があるのだろう。

まだ温かいタマモの手に触れたさよは、ふと空に輝き始めた星に気付く。

握られたタマモの手の温もりに安堵しつつ、かつては暗い闇夜で唯一の味方だった星の輝きにほんの少し懐かしさも感じていた。

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