二年目の春・8

横島達が捌いたマグロは数百人分はあったが、無料配布ということもあり二時間ほどで品切れとなった。


「これ皆さんで食べてください」

なお去年は中落ちや頭などを貰って食べた横島と少女達だが。

今年はプラスして別途用意してくれた、マグロの身も差し入れに貰ったので、さっそく調理してみんなで食べることになる。

身の方は中落ちと一緒にお刺身にして、頭は豪快に兜焼きにすることにする。


「マグロ楽しみだね。」

「うん! たのしみ」

「二人とも作業をしてください!」

もちろん作業の方も決して余裕がある訳ではないので、みんなで作業をしながら横島達が調理するのを待つことになるが。

桜子とタマモは調理が気になるらしく仮設店舗の厨房の入り口から覗き込むように見ては、あやかに注意をされることを繰り返していた。

まあタマモの場合は注意されるのも何故か楽しいらしく、桜子が逃げるよと走り出すと笑いながら続いている。


「もう、タマちゃんに変なこと教えないでよね。」

「危ないから走ってはだめです。それに注意されたことも守らないと困ってしまうですよ」

ただちょっと悪いことをして叱られることを楽しんでるようにも見えるタマモの様子に、明日菜と夕映がすぐにタマモを確保すると、きちんと躾をして言い聞かせていたが。

桜子にもタマモにも悪気はないが、あまりいい傾向でないのは確かだろう。


「えへへ、ごめんね。」

「あやかちゃん、ごめんなさい。」

明日菜と夕映にタマモの教育に悪いからと注意されると、流石に桜子とタマモも悪ふざけを止める。

タマモも少しやり過ぎたと思ったのか、あやかに申し訳なさげにぺこりと謝ると、あやかもつい笑いだしてしまいその場の空気が和む。


「タマちゃんあんまり叱られる経験ないもんね。」

「うん。」

テレビや他の人が叱られるのは見たことがあるが、躾をされることはあっても基本的にいい子なので叱られた経験はほとんどない。

あやかはいつもの調子で桜子と一緒に強めに注意しただけだが、ほぼ初めて叱られたことに、やはりタマモは楽しくなってしまったらしい。


「まあ、そんな時期もありますわよね。私もアスナさんと会うまでは、叱られた事などありませんでしたわ。それなのに乱暴なアスナさんのせいで叱られたことは、今でも忘れられませんわ。」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

「言葉の通りですわ!」

「ケンカはだめだよ!」

そのままちょっと落ち込むタマモにあやかはつい昔を思い出してしまったのか、幼い頃に明日菜と喧嘩をして叱られた話を持ち出すと今度は明日菜とあやかが口喧嘩を始める。

しかしそうなるとケンカが嫌いなタマモが今度は止めに入るので、端から見たら微笑ましい光景となってしまい笑い声が響いていた。


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