二年目の春・8

「チッ。どいつもこいつも。」

一方魔法世界では悠久の風のエレーヌ・ルボーンが不機嫌そうに舌打ちしていた。

クルト一派が崩壊したとの話はすでに彼女まで伝わっていたが、あまりに身勝手で中途半端な幹部達にエレーヌは怒りを募らせている。

魔法世界にはないだろうが、他人の褌で相撲をとるということわざのような彼らには、エレーヌばかりかメガロメセンブリア中枢すら呆れているのが現状だ。


「仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。大義名分が失われましたから。ゲーデル議員は自らの全てを賭けて魔法世界の革命を起こそうとしましたが、他はそこまでの覚悟はなかったと。」

ただ腹心のセドリックは、幹部達の心情をそれなりに理解してる。

百パーセント世の中のためだけに生きてる人なんて、滅多に居ないのだ。

彼らは彼らなにり魔法世界のことを考えていたが、同時に成功すれば自分達が英雄となるという功名心もあった。

クルトとは違う普通の人なのだ。


「上はなんて言ってるんだい?」

「ゲーデル議員と側近は、予定通り国家反逆罪で捕らえるそうです。タカミチ君と近衛詠春氏の無関係も確約しました。まあ上からすると、せっかくゲーデル議員の大義名分が失われたのに、わざわざ大義名分を復活させてやる義理はないですから。」

皮肉なことかもしれないが、クルト一派の止めを刺したのは詠春の映像だった。

確かにメガロメセンブリア中枢は赤き翼を苦々しく思う者も居るが、決して過小評価はしてない。

詠春がクルトをせっかく赤き翼という大義名分から切り離したのに、わざわざ高畑や詠春を巻き込み大義名分を再びクルトに与えるような愚かな真似は誰もするはずがなかった。

それにここで詠春を追い詰めると、クルトに大義名分を与えるばかりか帝国がまた介入してくる口実を与えかねない。

あくまでも赤き翼とは無関係の犯罪として裁くのが、メガロメセンブリアとすれば無難な落としどころになる。


「詠春には間違っても来るなと連絡しといたよ。あいつの事だ。自分で止めに来るかもしれないからね。」

「なんと言ってました?」

「笑って誤魔化していたよ。ありゃ来る気だったね。」

「気持ちは分からなくもないのですが、近衛詠春氏が来ればあちこちを刺激します。出来れば遠慮して欲しいですね。」

そしてエレーヌは詠春が魔法世界に来るのではと半ば疑っていて、わざわざ連絡をして魔法世界に来ないようにと釘を刺していた。

生真面目な詠春のことだから、暴走した元弟子を自ら止めるのではと疑っている。

しかしまあ、せっかく落としどころが決まりなんとかなりそうなところに英雄再来なんて、エレーヌもメガロメセンブリア中枢も望んでない。

元々赤き翼は今ある危機を解決する能力はあっても、後始末など考えないタイプなのだ。

ある意味エレーヌ達の努力を無に帰す恐れすらある。


「近衛のじいさんにも止めるように連絡をしたし大丈夫だろ。」

魔法世界の問題は一切解決しないが、現状だとクルト一派を最小限の責任者の訴追で納めることが無難な道だった。

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