二年目の春・8

「うわ~。 色が付いたね!」

「夜まではこのまま乾かすから触らないようにな?」

お昼になると午前の授業を終えた3ーAの少女達がやって来るが、横島はさっそく桜子とまき絵に抱きつかれながら塗装の終えた発泡スチロールを乾かしていた。

相変わらず人目も憚らずに何処でも抱きつく二人に、横島は苦笑いしつつ軽く注意するが聞くはずもない。

横島自身も慣れてるし悪い気はしないので、一言注意した以降は好きにさせているが。


「横島さん。 タマちゃんは?」

「塗装の時は危ないから最初は離れて見てたんだが、アナスタシアが散歩に連れて行ってから帰って来てないな。あいつらどこまで散歩に行ったんだか。」

ただ仮設店舗にはいつも元気なタマモの姿がなく、明日菜や木乃香が疑問に感じたようで尋ねるも、アナスタシアが連れて行ったと聞くと心配まではしなかった。

横島ならば何か騒ぎでも巻き込まれて居そうだが、アナスタシアならば大丈夫だろうと妙な信頼感がある。


「ほら、貴女達もいつまでも抱きついてないで、作業をしてください。」

「もうちょっと……。」

「もうちょっとではありません!」

「いいんちょもする? マスターに抱きつくと気持ちいいよ」

「しません! だいたい気持ちいいとはなんですか!」

一方横島だが、こちらはいつまでも横島に抱きついたまま作業を始めない桜子とまき絵が、あやかに注意をされていた。

横島ですら慣れたので木乃香達も注意してないが、あやかは立場上注意をしなければならないのだろう。

ただ桜子が横島に抱きつくと気持ちいいと発言すると、あやかや周りの少女は流石に顔を赤らめたりしてびっくりしてしまう。


「うーん。 なんかホッとするような幸せなような感じ?」

「なんだそりゃ。」

まあ桜子の気持ちいいという意味と、少女達が想像した意味は全く違うのだが。

少し紛らわしい桜子だが、もちろん悪気は全くない。


「それは興味深いわね? ほらあんた達も試してみなさい!」

「ふえ!?」

「出来ませんよ。流石に」

下心もまるでない桜子とおバカなまき絵故に、抱きついても卑猥な感じにならないようだ。

しかしここでハルナがのどかと夕映をけしかけよとするも、のどかは顔を赤らめて首を横に振っているし夕映もまた少し動揺しながら拒否する。

実は二人も桜子の言うことの意味を少し理解していた。

店で料理を教わる時などは距離が近く、桜子が言うようにそのまま身を任せたくなる時がない訳ではない無かった。

もちろん、そんなこと口が裂けても言えないが。

元々女子校故にあまり出会いがない少女達なので、正直そこまで素直に甘えられる桜子やまき絵が羨ましいと思う者は意外に多かったりする。

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