二年目の春・8

タマモとアナスタシアの散歩は、すでに営業してる麻帆良祭関連のアトラクションや、出し物を見たりしながら続いていた。

アナスタシア自身は十年も麻帆良に居るので、すでに半ば飽きてもいるようだが、好奇心全開なタマモに付き合ってるらしい。


「すごいね! おまつりみたい!」

遊ぶよりもみんなのお手伝いが好きなタマモであるが、みんなやアナスタシアと遊んだり散歩したりするのも好きなのだ。

見たことがない物が次々に現れる、驚きの連続の中でタマモはアナスタシアとの一時を楽しんでいく。


「ほら、口元についてるぞ」

途中車上販売のカフェがあり休憩する二人だが、タマモはシュークリームを頼むとかぶりついて食べていて口元にクリームが付いている。

アナスタシアは仕方ないなと口元を拭いてやると、タマモは嬉しそうな笑みを見せた。

若くして吸血鬼化してしまい子供の産めないアナスタシアにとって、子供というのは特別なモノがある。

諦めていたと言えばその通りだが、数多の人の生と死を見てきた彼女ですら、我が子を抱いてみたいとの想いはない訳ではない。

決してタマモを我が子にしようとか、我が子の代わりにしようと思ってる訳ではない。

ただこうして共に過ごす幼い時間が何より貴重なモノかは、彼女はよく理解していた。


「おお! タマモ君とアナスタシア君ではないか!」

端から見ても楽しげで幸せそうな二人に周りもついつい笑みがこぼれるが、そこに偶然通りすぎたのは符術製作士として麻帆良の第一人者である高杉教授だった。


「あっ、きょうじゅさんだ。おはようございます!」

「おはよう。楽しそうじゃの。」

「うん。おさんぽしてるの!」

少し迷惑そうな顔をするアナスタシアにもめげずに、高杉は空いてる椅子に座るとタマモと朝の挨拶をして楽しげに世間話をする。

はっきり言えばアナスタシアは高杉が少し苦手かもしれない。

横島が来る前から弟子にして欲しいと押し掛けて来て、恐れもしない彼のようなタイプは対応に困ったのが本音だろう。


「貴様も相変わらずだな。」

「この時期は結構暇での。学生は麻帆良祭の準備で忙しいし、ワシは警備など出来んでの。」

アナスタシアの正体を知りながら恐れもしない高杉だが、彼に言わせるといい年して吸血鬼など怖くないと、以前言われて唖然としたことがある。

みんな忙しそうなこの時期に、暇そうな高杉にアナスタシアは少し呆れてしまい。

優秀だが今一つ使いどころがない人材だと、前に近右衛門がぼやいていたことを思い出す。


「あー! 教授! こんなとこで油売ってないで、論文纏めて下さいよ!」

「いかん。見つかってしもうた。ではまたな。」

だが高杉は若い助手が探しに来ると、マズイと逃げ出してしまう。

どうやら本当に暇なのではなく、やりたい事がないだけのようであった。



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