二年目の春・8

「へ~、詠春さんを擁護してるんっすか。」

「うむ。例の影像をこちらが出したと疑っておるようでな。どちらにしろ婿殿の名誉を守る方がいいと判断したようじゃ」

クルト一派の崩壊の情報はすぐに横島と近右衛門達に知らされていて、横島と芦優太郎と近右衛門と穂乃香と詠春と高畑は今後な対応策を話し合う為に集まっていた。


「ここで詠春さんが出ていって、トドメを刺すのが一番なんっすけど。風向きが変わりましたかね。」

最終的にクルトを詠春が止めることで、無関係だと証明するつもりだった一同だが、悠久の風が擁護してるならば下手に動けば滅茶苦茶になりかねない。

ここまで来ると、あまりにタイミングよく出ていけば逆に何故知っていたのだと余計な疑念を生む可能性がある。


「魔法公開に必要な強制認識魔法のかかった影像は、クルト・ゲーデルの持つ一つを除いて破棄された。」

「あと一つはあるのか。」

麻帆良や地球にとって厄介な強制認識魔法の掛かった影像は幾つか用意されたが、クルトが仲間にも隠して持っている予備を除いて破棄されたと聞くと一同は複雑な表情をした。


「もう再起も出来ないと思いますけど、魔法公開するんですかね?」

「すると思うよ。他の可能性が無くなったなら尚更。」

「本当過激派そのものっすね。」

問題は残る一つの影像とクルトの出方であるが、冷静な人ならばここは計画を放棄して一から出直すところを、クルトならばこのまま強行すると高畑は言い切った。

横島自身、過去のザンス過激派や神魔それぞれの過激派を思い起こして、もうどうしようもない男だと心底嫌そうな顔をする。


「さて、どうするべきかのう。」

「最悪の場合は、素性を隠して最後の影像データを奪うしかないんじゃないっすか?」

「うむ。エレーヌ殿がその可能性に気付かぬはずもない。恐らく最後の影像は回収すると思うのじゃが。」

まあ横島と近右衛門からするとクルト一派の行方よりは最後の影像データの行方が気になるようで、逆に言えばそれさえ取り上げたら後は魔法世界の人達に任せるべきだと考えていた。

現状で悠久の風の者達がクルトの暴挙を見過ごすはずがなく、あまり他所からしゃしゃり出て行くよりは任せた方がいいのが理想だった。


「それでクルトって人が捕まったとして、どうなるんです?」

「未遂じゃからのう。内乱罪とその他の罪でも死刑にはなるまい。二十年か三十年の懲役はなる可能性はあるがの。」

ここまでやるとメガロメセンブリアもクルトを野放しにはしないだろう。

詠春がクルトから英雄の看板を取り上げたのだから。

尤も詠春からすると、何かを成したいなら過去の自分達の名前を使わずに、己自身の名前と力で成せと言ったに過ぎないが。

しかし代わりとなる看板のないクルトにとって、前の偉大すぎる看板は失うとこれ以上ないほどの重荷になることになる。

高畑と詠春は終始複雑そうな表情であったが、最早どうしようもない話であった。

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